陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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IF外伝 境ホラ3

 武蔵の艦上を駆け抜ける姿がある。既に恒例となっているそれは武蔵の主力、総長連合生徒会の役員が一挙に集まっているクラス―――三年梅組とその担任、オリオトライ・真喜子の姿だ。戦闘を得意とする生徒が率先して攻撃を仕掛け、それがあしらわれている。だがその光景を二年前から眺めている人物から言わせれば、確実な成長が見て取れるだろう。二年前だったら攻撃を中てるどころか追いつく事だけで精一杯だった。今、オリオトライの髪に攻撃を掠らせ、そして刃を抜かさせているだけでも大きな進歩だ。

 それを、

「パンうめぇ……!」


 マルグリットに焼いてもらったパンを食べながら遠くから見る。まだまだ熱が残っている。特別何かしてあるってわけではないが、愛が詰まっているので神々の祝福を得ているのと同じようなものだ。そう、これは、女神のパンだ。女神の思いと愛の全てが込められてる、俺の為だけに作られたパンだ。ゲームに出てくれば大切なものポケットに入るレベルのパンだ。

「やっぱ嫁に作ってもらったものは何でもおいしいと思うんすけど、そこら辺どうなんですかね?」

「いや、俺に聞かれたって困るよ。そこらへんどう思う”武蔵”さん?」

「Jud.正直どうでもいいかと。―――以上」

 場所は奥多摩、武蔵全体が良く見渡せる艦橋近くに野点の様な空間がある。ただそこで茶会が開かれているといわけではなく、中年の男が一人、十代後半に入った青年が一人、そして一体の自動人形がただいる、そんな空間だった。青年は食パンを片手でつかみ食べ、中年の男は抹茶や緑茶を飲むための湯飲みで紅茶を飲んでいる。そしてその光景を一歩下がったところで自動人形”武蔵”が見ていた。

 見上げる空は青く、ほとんどの時間をステルス航行で移動している武蔵としては中々に珍しい光景となっている―――とはいえ、聖連に武蔵の所在を伝えるためにマーカーを打ち出す時はステルスは解除され、短い間だが空を見る事ができる。だが今回はそういった意味でステルスが解除されているわけではなく、純粋に目的地が近いためにステルスが解除されている。ステルスを展開したまま接近し敵襲だとは思わせてはいけないからだ。

「梅組の皆、どんな感じだと思う?」

 中年の声に答えたのはのは自動人形だった。

「Jud.―――中々成長していると思われます。今なら他国の教導院とも良い勝負になるかと。―――以上」

 自動人形とは人の形をした機械であり、瞬時にデータベースにアクセスできるのが強みだ。この航空都市武蔵の艦長であり統括自動人形の”武蔵”には、各国の教導院が公開している範囲でのデータがあるのだろう。学生の上限年齢が十八である極東に対して周辺諸国には上限年齢がない。そのことを考えるのならば、もっと経験を積んだ存在に食いつける武蔵の総長連合生徒会は中々才能と環境に恵まれているのだろう。

 いや、環境には恵まれていないか……。

 戦科授業を受ける事さえできれば、もう少し技術的成長を見込めるかもしれないが……それを望むのは間違っているのだろう。

「副長としてはそこら辺どうなんだい?」

 どう、とは成長の事だろう。

「先生と勝負になり始めていますねー。神州の平均っつーかスタンダードが解らないんでそこらへん判断のしようがないっすけど……まぁ、いい感じになってきたと判断しますね。浅間とか相変わらず射撃と砲撃を間違えたようなのぶっ放しますけど、ウッキーやテンゾーやノリキは連携っつーか小賢しい動きが増えたというか……足りない部分を互いで補い合う”神道”らしさが出てるかなぁ、と」

 神道とは結構ピーキー、というよりも個人個人で特化させるのが術としての基本なのだ。そして特化した故の足りない部分を埋めるために横のつながりが強く、神を通した仲介で別の神の術だって使える。つまりは自分の短所を他の神を使って補うことができる。支え合い、補い合うのが神道術式のユーザーとしての正しい形であり、武蔵での理想形だ。

「じゃあ最上君も参加しなきゃいけないんじゃない?」

 ここから遠くにいる梅組の様子を眺める。艦と艦の間のロープを走り抜けているが、そこまで行ってしまったらもうオリオトライは捕まえられないだろう。今回も梅組の敗北だ。戦闘を教える事が出来ないから、体育や普通の授業に混ぜて必要な事を教えるオリオトライの手腕は中々なものだ。

 無言で武蔵の周りを飛び回る赤い姿に視線を向ける。

「三征西班牙(トレス・エスパニア)の”大鷲”が見張りについてるのに副長が動くわけにはいかないっすよー。こう、ハエを叩き潰す様に叩きてぇ」

「絶対にやらないでくれよ? みんなそう思っているだろうけど。まあ」

 軽く学長が―――昔は大総長(グランヘッド)と呼ばれたが、今では左遷されたために武蔵アリアダスト教導院の学長職に収まっている男、松平四天王のリーダー、酒井・忠次が苦笑する。

「君、そんなんだから聖連に”用無し”なんて字名(アーバンネーム)を貰うんだよ」


                           ◆


 ”用無し”、それほど今の自分を的確に表す言葉はないと思う。武蔵は聖連の傀儡であればいい。各国の国境上を飛ぶただの交易船でいればいい。武装は必要ない。権力も必要ない。武力も必要ない。だから総長生徒会長には無能を据えよう。副長なんてものはそれこそいらない。活躍の場をすべて奪おう。

 戦うな。逆らうな。傀儡であれ。

 それが、武蔵の現状だ。

 全く酷いものだと思う。

「まぁ、皮肉ですよね”用無し”ってのも。武蔵には武力は必要ないし、副長も必要ない。だから副長の職務は鍛錬と警邏以外には存在しない。そしてそれは誰にだってできる。故に”用無し”。お前は武蔵に必要とされていない、って事っすねぇ」

 それを自分で言うのは本当にアレな話だが、聖連も俺がそれに気づいているからこそ、そんな名前を付けたのだろう。いろいろと嫌みな連中だと思う。だが―――それが、これこそが聖連を繁栄させる手段だと理解しているのだ。相手もただ嫌がらせでやっているわけではなく、一番聖連に力を与え、それでいて各国に利益を上げる手段を取っているに過ぎない。

 何も生活しているのは武蔵だけではない。

 そう考えると少しだけ複雑な気持ちになる。

「それじゃあ最近はどんな感じなの?」

 やけに話題を振ってくるなぁ……。

 パンの最後の欠片を口に放り入れながらよく噛み、味わい、そして飲み込む。パンを食べおるのと同時に、

「これをどうぞ。―――以上」

「あ、すいません」

 武蔵が紅茶をくれる。少し前の話を信じるのなら仕入れたばかりの新ものらしいが……そこまで紅茶の味が解る人間ではないので普通に飲み、

「最近はもっぱら―――番屋でトーリを回収するのが仕事っすねー……」

「あぁ、やっぱり?」

 全裸で街中を歩き回ったりなどの奇行を止める気配がないので、あの総長兼生徒会長はもはや番屋の常連となっている。国の運営におけるトップがそれでいいのかと叫びたくなるが、昔からそうだったと言えばその通りなのだが。しかし回収作業は俺か浅間の担当というイメージで固定されているんはどうにかならないのか。

「もう最近ではトーリが捕まったら通神で真っ先に知らせてくるっすよ。善鬼さんよりも先に、何で実の親よりも早く知らされているんでしょうねぇ……」

「そっちの方が早いからじゃない?」

 いや、まあ、確かにそうなんだけどねぇ……。

「で、最近はどんな感じに体鍛えているの? 聖連の監視がないときにまとめてやっているんでしょう? こう、ギロチン殺法! 的なのまだやってる?」

「そのネーミングセンスはない」

 確かに処刑術は処刑術なのだが、

「もっぱら陰陽術や仙道を勉強してますねー。剣術にも限界感じますし」

 使っている得物の形状が剣なだけで、その性質は武器から離れすぎている。剣術を習ってもそれはそれで限界がある。正しく習うべきなのは処刑術なのだ。だからこそ行き詰まり、独学で陰陽術や仙道、忍術とかにも軽く手を出したりしているが、そこまで結果がいいわけでもない。

「広く手を出してるわけだ。うんうん」

 何やら酒井が企てている気がする。

「じゃあさ」

 酒井が提案してくる。

「今日俺、三河で昔の同期と会うんだけど―――ちょっと、来てみない? ダッちゃんとかさ、結構いい刺激になると思うんだよね俺」


                           ◆


 エプロンをつけてオーブンから熱を帯びたトレイを引き抜く。もちろんキッチンミトンをつけて手がやけどしないように気を付ける。ずっと昔に熱いという事を知らずに触って酷い目にあった気がする。その時は確か明広が町中のトレイを斬って回ったらしい。

 オーブンから出てきた焼きたてのパンの匂いを嗅ぎ、甘い匂いを確かめる。次に十分焼かれているかどうかをテェックするため、端の方のパンを一つ割ってみる。中まで熱くなっている。これなら売りに出しても問題ないと、出来たパンを評価する。あの子も現れた時とは比べ物にならないほどに上達したな、と、店の外にいる存在に目を向ける。

 そこにいるのは銀色の髪の自動人形だ。自動人形自体は珍しくない。だからそれに関しても問題はない。だが問題があるとすれば―――その自動人形が宿す魂の色だ。所々欠けて見えるが変わらないあの鮮やかで美しい色は記憶から決して消えない。色を見て即座に誰のものか気づいた。自分も、明広もだ。魂を見て誰か理解するなんて荒業は自分たち二人にしかできないけど、

 多分トーリも気づいてるよね?

 魂とかそんなところじゃなくて、直感的な、私たちには感じられない何かで感じている、とは思う。

 と、そこで、

「マルグリット様」

 店の扉が開き、外で水を撒いていた自動人形―――P-01sが姿を現す。恰好は自分と同じで、エプロン姿だ。ただエプロンの下の服装に関しては、向こうは武蔵アリアダスト教導院の制服ではなく、私服となっている。

「どうしたの?」

「正純様がまた倒れているのですが、これはどうしたらいいのでしょうか」

 オーブンから出した焼きたてのパンをこのまま放置するのは少し惜しいが、一旦カウンターに置いて店の外に出る。そこにはP-01sの言った通りに本多・正純が地面に倒れていた。

 近寄って指の先でつんつんとつつく。

 ぴくぴく、と正純が動く。

 つんつん。

 ぴくぴく。

 つん……つん。

 ぴく……ぴく。

「あ、なんだか楽しいかも」

「いや、助けてくれよ……」

 切実な正純の声に一瞬、ほんの一瞬だけまだつつくかどうかを迷うが、

「外は熱いしまずは中に運ぼう?」

「Jud.お手伝いします」

 正純をP-01sと共に両側から挟むようにして持ち上げ、バイト先の青雷亭の中へと引きずって行く。筋力が足りないのでどうしても正純を引きずるような形になってしまう。が、正純はそれを気にするような様子はない。P-01sと共に店内の椅子に座らせると、一息ついたようで、大きく息を吐き出す。そこにP-01sが水を持ってくる。

「どうぞ」

「すまない、二人とも助かった」

「Jud.自動人形としての当然の機能です」

「お互い様だよ」

 P-01sの感情らしい感情を見せない姿は、昔を知る人物からすれば悲しい事だが―――

「あれ?」

 正純を見て、そこでふと気づく。

「ん? どうしたんだマルグリット」

「マサズミ……加護、ないよ?」

「え?」

 正純を武蔵の作業で助ける筈の体力上昇関係の術や温度調整といった術がほとんど機能していない。武蔵で生活する上では必須とも言える加護で、それなしで生活するには自分や明広ほど特殊な存在でなければ難しいのだが―――その加護が正純の場合かなり弱い。

「マサズミ……トモの所で契約更新した?」

「え、必要なのか?」

「そうなのですかマルグリット様?」

 P-01sも神道術に関する知識は少ないようだ。智はあれで結構布教好きというか、神道の歴史とか知識を結構話す。それにバイトで働いている事もあって、知識だけはある。たしか、

「トモの所で契約更新しないと、武蔵の加護は得られない。三河の土地とした契約はまだ有効だけど、三河から離れて武蔵で生きてるからその加護が得られない……だと思う」

「……そ、そっか……食費ケチってる事が原因じゃないのか」

「ううん、多分それが一番の原因」

 思わずツッコンだ。

 もう少しで三河へ到着するけど―――それでも武蔵は今日も平和だ。
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| 断頭の剣鬼 | 10:00 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

うむ。“用済みか”とか馬鹿にした連中を蹴散らす光景が目に見えるようだ!

| 羽屯十一 | 2012/08/24 11:33 | URL |

ちょっ!?
女神のパンとか、それどこで手にはいるんですか! ダースで下さい真剣に!!
武蔵は今日も平常。
変態が舞ってたり吹っ飛んだり妖怪が現れるかもしれないけど平常なら平和なんだよきっと(笑)

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/08/24 11:47 | URL | ≫ EDIT

今の内に言いたいだけ言うがいいさ
もうすぐ妖怪が歓喜する…!

| ぜんら | 2012/08/24 12:42 | URL |

女神マジ女神。そのぱんを俺にくれ(首を置いていかされました

| 暇人 | 2012/08/24 23:23 | URL | ≫ EDIT















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