陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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第七話 幕を開ける舞台



 1週間も滞在すれば大抵の事には順応し、周りのものとは顔見知りにもなれる。北華鏡の村はそれほど大きくはない。故に知りえる人間もそう多くはない。宿屋に泊まっている人間の大半は1日や2日休む程度に泊まる冒険者や旅人か、羊毛の買い付けに来た商人。それを抜けば宿屋の従業員ぐらいなので顔や名前を覚えるのに時間はそう要らなかった。

 集落の方でもそうだ。住民は割と冒険者との距離と近い暮らしているために警戒心は無く、子供達も積極的に旅の話をせがんでくる。農家の者は作物をあまったときには分けてくれたり、世間話をしてくれる程度には仲もいい。村全体が一つの家族のように機能している、『優しい』場所だと思える。

 この1週間の玖楼の生活は簡単なものであった。

 『あの』日以来、玖楼はサティアと同じ部屋に泊まる事に文句を言わぬ様になる、逆に常に共にあることがよく見られるようになる。朝食のときも、散歩のときも、鍛錬のときもほぼ四六時中一緒に居るように見られる二人は、

 完全にバカップル認定されていた。

 別に見せ付けるようにしているわけではなく、ただただ自然体なだけだが、それでも他者を魅了してやまない容姿のサティアと、そして珍しい黒髪の青年と言う組み合わせはやけによく目に映る。だからこそ特に目立つ行動をとるまでもなく二人が一緒にいる姿はよく目撃されていた。

 ただ、玖楼としてはイチャイチャしていたばかりではない。

 日々の鍛錬はマルウェンの腕輪をつけてちゃんと続け、街道に出る魔物と戦って戦闘経験も増やしている。まだ強くなる感じはしないものの毎日の積み重ねが大事だということを知っているために決して手は抜かない。教会にだって何度か訪れて『現神』と『古神』の関係を聞いたりと、リッチやナベリウスが教えてくれなかった外の世界の常識についても色々と知った。

 たとえば、大昔に三神戦争と言う戦争が起きた。

 この世界には機工女神、現神、古神の三つの神々が昔はいて、その三者が世界の行く末をかけて戦い、人々の信仰を得た現神は『邪神』である古神を打ち砕き、見事世界に安寧と平和をもたらした……との事である。

 機工女神の事は深くは言及されてないが、古神の『邪神』扱いに関しては若干悩むところもあった。何せ、ナベリウスが『タルちゃん』と呼ぶ古神が冥き途には居り、話を聞いた分には『タルちゃん』が悪を象徴するような神だとは到底思えなかったのだ。

 やっぱり勝者は汚いなぁ、とか思ったりもする玖楼ではあったが、それだけでは世界については決められない。

 玖楼が冥き途を出た理由はサティアと逢うためと世界を見るためである。最初は数ヶ月ほど滞在する予定ではあったが、サティアの勧めもあって数日後には出る腹積もりであった。だからその前に出来ることをするためにと、玖楼はここ最近宿屋で魔物の被害報告を受けては討伐に乗り出していた。

 北華鏡の集落のような小さい辺境の村では冒険者ギルドの支部なんてものは存在しない。ギリギリで騎士が一人いるかいないかだろう。そのため、この辺りの安全を図るために玖楼は危険な魔物を倒そうとしていた。


                  ●


 場所は北華鏡の集落の宿屋1階、朝食の時間を少し外れたために今ではがらんとしていて人の気配は少ない。酒場や食事どころとなっている1階の奥、店主がカウンター裏でせっせと仕事をしている場所の前に玖楼の姿がある。ここ最近ずっと横にいるはずの女性の姿は無いのが若干珍しくも感じられるはずだが、それとは関係なしに店主は玖楼と会話を続けていた。

「それでおっさん、確か近くに強いのがいるんだよな?」

「まぁ、そうなんだが。頼んじまっていいのか?」

「旅なんだし出る前に出来ることはしておきたいからな」

「そうかい。まぁ、冒険者とかにゃあ普通に渡してるような類の情報だけれども、相手は平気にこっちを襲ってくる化け物だって忘れないでくれよ?」

「んな事わかってるって……ボソ(もっと化け物っぽいのと暮らしてたし)」

「何か言ったか?」

「いんやなにも」

「……っとほれ、これが情報だ」

 カウンターの向こう側、掲示板に貼り付けられた紙のひとつをはがすとそれを玖楼へと渡してくる。受け取ったそれを玖楼が覗き情報を頭の中に書き込んでゆく。

『目標:木精(ドライアド)の討伐
場所:北華鏡の集落の外れ周辺
状況:最近村の外れで人を頻繁に襲う木精が報告されている。
木精は本来大人しい気性の筈だが、気が立っているのか頻繁に襲ってくることが分かった。理性があるのか無いのかはわからないが、戦意を奪っても再び襲ってきて正直きりが無い。罰当たりではあるがそろそろ討伐して欲しい』

「木精って言えば立派に精霊だよな?」

「種族としてはユイチリ(木精の一種)ほど理性は無いが豊かな自然の象徴ではあるな。温厚な性格をしているのが大半なのだが何故だかこの『一団』は人を襲って来るんだよ。本来なら自然を汚したりする者や魔物相手に戦ってくれるはずの存在だがどうも様子がおかしくてなぁ。幾ら戦意を奪って森の中へ帰しても再び現れては見つけた人間を襲うんだ。農家の人間が二人ほど、まだまだ未熟な冒険者が数人襲われて今も上の部屋で寝込んでるよ」

「木精ねぇ……うん。この程度だったら何とかなるはずだ」

「お、本当か? ここらは自衛手段が少ないうえに騎士は一人しかいないから村から離れることも出来ない。ここらに来る冒険者はそう強くは無いし、お前のようなやつがいると助かるぞ。無事討伐できたら証拠になりそうなものを持って帰れば報酬をだすぞ」

「了解。んじゃ早速行って来るよ」

 貰った紙を道具袋にしまいながら背を向けて歩き出そうとする玖楼の背中に最後にと、言葉が投げかけられる。

「嫁さんには言わなくていいのか?」

「ブッ」

 その言葉に思わず噴出してしまった。

「誰が嫁だよ!」

「いやいや、隠さなくていいんだぞ? 正直サティアちゃんはこの村へ来てから競争率が凄まじい子だったから、皆どうやってお前が落としたか気にしてるんだぜ?」

 同時に恨まれもしてるよ。襲われたし。

「大体お前らの存在は村公認だ」

 マジか。

 と、そこでやっと自分を持ち直す。

「サティアさ……戦うの嫌いなんだよ」

「……あー。なるほどな」

「武器も投石紐で相手を傷つけずに戦意だけ奪って戦いを収めようとするんだよ。そこらの魔物ならいいけど、こういう手配書がまわってるようなやつ相手だと……な?」

「ふむふむ。なるほどそれはよく分かった」

 わざとらしくうんうんと店主が頷く。そのコミカルな動きにどこか悪寒を感じる。勘と言う物は結構馬鹿にできないものだ。なのにそれが嫌な感じを予感させている。

 ふと、背後に誰かの気配を感じる。

「……だそうだぜ、若奥さん?」

「……へぇ」

 ここ最近になって聞きなれた声。いつもなら嬉々として受け入れる声だが、今この瞬間だけは受け入れがたかった。ゆっくりと、ギギギと言う音を鳴らすように首を回すとその背後に今だけは会いたくなかった人物がそこにいた。燃えるように赤い髪に白と青の服装。ニッコリと浮かべる笑みは美しいが……この時だけは凄まじい威圧感を感じる。

「おっとぉ、たいさーん」

 店主が逃亡した。まて、逃げるな。俺も逃がせ。つか逃げる。

「何処へ行くのかしら?」

 しかし まわりこまれた!

 サティアのてがやんわりとした動作で肩へと置かれるが、そのての握力は見た目と裏腹にメキメキと骨を軋ませるほどの力で玖楼の肩を締め付けていた。カウンターの奥の厨房から覗き見している店主が修羅場とか言いながら顔を青ざめさせているが、

 お前は絶対に許さない。後で覚えてろよ。だけど今はお前の身より我が身が超ピンチ。助けて神様。今ならどんな神様でも信仰しちゃう。いや、マジで。別に無神論者でもないしいけるよね? たすけてナベリウス! リタ! リッチィィィィ! 少尉ィィィィ! マリーちゃぁぁああああああん!!!

『うふふふふっ。くすくすくす。い・や・よ♪』

 マリーちゃぁぁぁああああああああん?! 返事予想外だったけどもっといいのだと嬉しいなぁ!

 肩の圧力がさらに増す。微妙にだがサティアが段々と般若に見えてきて激しく寒気を感じる。

「……今、別の女性を、しかも美女の事を考えなかったかしら……?」

「か、神頼みしただけっすよサティアさん!極東には八百万の神の考えがありましてですね」

「あら……おかしいわね…………信仰している神はいないんじゃなかったかしら?」

 中々直視しにくい状況ではあるが瞳を覗いてみれば瞳の色からハイライトが完全に消えている。恋人のまさかの属性に若干と言うよりもかなり戦慄するも神頼みさえも封じられ完全に逃げ場の無いこの状況、頭の中に行く通りものパターンが浮かぶがすぐさまサティアには通じなさそうと否定する。

 人生で一番ピンチかもしれないと思った瞬間に、圧力が消えた。

 やれやれとため息を吐くサティアが何時もどおりの雰囲気へと戻っていた。

「玖楼? ……あまり私を心配させないでね。玖楼が私のことを心配してくれているのはわかるけど、私だって玖楼の足手まといになんかならない……なりたくないの。だからこんな風にこそこそしないでね? じゃないと私、のけ者にされているようで寂しいから……」

「な、別にのけ者にしてるわけじゃないぞ?! ただほら、サティアって無駄に傷つくのを見るの嫌いだろ? だからさ、お前が気づかないうちにパっと行って終わらせようとか考えてたんだけど……」

「それでも……それでも私はなるべく離れたくないわ。戦えなくても治療魔法ぐらいはできるのよ?」

 サティアが玖楼の瞳を捨てられた子犬のようなうるうるした表情で見つめてくる。流石に罪悪感に耐え切れなかったのか、わかった、わかったと言い、

「俺が戦うから後ろにいるんだぞ?」

「わかってる。それに私はそこまで弱くは無いわよ?」

「そりゃぁ……わかってるさ」

 何よりも玖楼自身が、彼女が守られるだけの存在ではないということを知っている。仲直り……のようなものをした二人をこっそりと伺っていた店主がおくから現れてきて、

「うんうん……若いっていいなぁ」

「オメーは許されねぇから」

「えっ」

「終わったら待ってろよ……?」

「……ほ、報酬はたっぷり用意するぜ!」

「分かればよろしい」

 お金は魔物を倒せば手に入るので実際はかなり財政には余裕があるが、それを決して口にはしない。お金というものは幾ら有っても装備や食料を整えたりするので消えてしまう。

 と、そんな思考をしながら店主に背を向けて宿の外へと向かう。

「あ、待って」

 早足で追いついてくるサティアを気にしながらも情報のかいてある紙を懐にしまう。情報に書いてある限りの強さによれば自分には敵わないものだろうからそこまで気負う必要は無い。宿入り口のドアを押し開けて外へ出ると、まず空を見上げる。普段は澄み渡った蒼穹が映るそれではあるが、全体に雲がかかり灰色の空を見せていた。空気も肌で感じる限りは湿っており、湿気を感じる。

「……これは」

 空を見上げながら声をこぼす。

「一雨来そうだなぁ」

 早く終わらせて、宿でサティアと一緒にお茶でも飲もうと、そう思いながら追いついてきたサティアと並んで歩き、書かれていた木精の出没エリアまで少し早めの歩で向かい始めた。


                  ●


 やはり村の人が襲われたという報告があっただけに、現場自体はそう遠くなかった。玖楼とサティアの足で歩いて1時間ほどの距離であった。木精が生まれやすいと言える、綺麗な川が流れる雑木林の中、その姿は目撃できた。人間に木の根が絡み付いたような姿であり、秘部と胸の突起以外は完全に裸であり見ているほうが赤面しそうな格好である。とは言え、完全に凶暴化し本来は緑のはずの瞳の色が警戒色の赤に変貌しており、何時も見かける能天気さからは考えられない凶暴性を感じる。

 こっちからは見えて相手からは見えないようにギリギリの距離まで接近したところから玖楼とサティアは様子を伺っていた。

「二……四……六……八、って予想外にいっぱいいるな。他にはいるのか?」

「ちょっと待ってて……パズモ、お願い」

 体を隠せるような茂みの中、サティアが両手を突き出すようにして軽く念じる。突き出した両手の中に風の動きが生まれそれが小さなつむじ風を生む。段々とその風が強まってゆき、最終的にはリンゴ大の大きさの風の塊になったところで……弾けた。そこから緑髪、白いローブ、風の塊と変わらぬ大きさを持った、妖精のような少女が現れた。

 パズモ・ネメシス。

 サティアが言うには昔からサティアを守ってきてくれた小さな友達で、使い魔であるとの事。こういう使い魔は普段主の体の中に潜み、召喚にしたがって現界するわけだが、このパズモは付き合いが長いのかサティアの許しもなくたまに現れては好物のリンゴを食べてるところが目撃されている。

 ちなみにこのパズモ、天使族と言う妖精の中でも非常に珍しい種族であったりする。

 サティアの掌の上に召喚されたパズモをサティアが顔の近くまで持ってくる。

「お願い。ここら辺で暴れている木精の数を知りたいの」

「…………………… !!」

 パズモには人語を喋れないが、その動作と操れる風の動作で了承をサティアに伝える。
それを見てた玖楼がパズモへと向けて小さな声で、

「しっかりやったら、帰ったらリンゴ奢ってやるぜ」

 その言葉にパズモの目が輝いた。ブンブンと擬音が見えてきそうなほどに頭を振るとサティアと玖楼の周りを1周してからうっそうと茂った雑木林の中へと飛んでいった。姿が小さく気配も小さいために素早く木の合間を縫って飛び回り素早く数えながら動き回る。やがてその役目を終えたパズモがサティアの元へと戻るとブンブンと、妖精の小さな羽根を鳴らしながら情報を伝える。

「………… !! ………… !!」

「えっと……全部で16体?」

「なにその数こわい。これは宿屋のおっさんフルボッコ確定だな」

 もしくは追加報酬。

「多くても六体ほどって考えてたのだけれど……やはり土地が関係しているのかしら」

「たしか精霊種は自然が豊富で美しい土地に現れるんだよな? 特に木精は木々が力強く育ちなおかつ綺麗な水が傍にあると増えやすいって」

「ここは条件としてはうってつけね。村の中自体は神の加護で安全なはずではあるし」

「そうだな……と」

 パズモが玖楼の肩に止まり、リンゴの事を忘れないようにと催促するように耳を引っ張る。それを小さく苦笑しながら分かった分かったと答え、腰に挿してある剣を抜く。姿勢を低くした状態で何時でも前へ出れるように体勢を整える。

「行くの?」

「あぁ」

「……勇者の付術!」

 玖楼の体が一瞬淡い光に包まれると、体に力が漲るのを感じる。サティアが申し訳なさそうに玖楼を見る。

「今回は回復以外にはこれしか出来ないから」

「それで十分……君がいるだけで十分、十分強くなれるさ!」

 玖楼の体が茂みから飛び出し、肩に乗っていたパズモが玖楼から離れサティアの元へと止まる。

「先手必勝! 身妖舞!」

 先手を取らんとばかりに木精を横から斬撃で真っ二つに切り裂く。この一撃で自分の攻撃なら十分オーバーキルだと確信し、身妖舞の使用を控える事を頭に入れる。玖楼はこの世界へ来て強くなりはしたが、その体のベースは現代の日本人。魔力は持ってない上に闘気を使えてもその上限はこの世界の戦士と比べれば平均よりは低い。玖楼はこの世界の人間と違って、魔物と戦えるような体では生まれていないため、それは絶対的に仕方が無いことなのである。

 だからこそ、考えて戦わなければいけないと、そう教わりもした。

 身妖舞で木精を一体倒すも、まだ他の木精は急なことで玖楼の奇襲には対処し切れていない。この隙に玖楼が一番近かった木精3体に切りかかる。左斜めに切り裂き木精を軽々と両断したままその横の木精を胴薙ぎで両断、3体目を剣で心臓部を突き刺す。死んだ木精が次々と一気に歳をとるように枯れ始めて行く。この時点でやっと状況へと追いついたのか木精たちが戦闘態勢へと入る。それを崩すように先頭の木精に、剣に突き刺さった木精を蹴りで押し出しながらぶつける。仲間の死骸をぶつけられ倒れはせずともよろめきはし僅かに動きが鈍る。そしてすぐ後ろにいたもう1体の木精と密着する。

「身妖舞!」

 本来は1体を切り裂くほどの力しかない身妖舞ではあるが、通常よりは多めの闘気を詰め込み切り裂く。発せられた斬撃が木精を2体とも両断する。

「これで6体!」

 サティアが施してくれた強化魔法は命中力、攻撃回数、そして攻撃力を強化する簡単な強化魔法である。だがそれは前衛にとっては必要な要素の揃った適切なサポート。それを受けている玖楼の攻撃はいつもより若干鋭くなっており、接近してきた木精にたいして臆す事無く踏み込んだ。

 なによりも、かっこ悪いところを見せて不安にしたくないという気持ちがあった。

 当初いた16体の木精も6体が瞬く間にやられ10体へと減る。だがここで戦闘の準備が完全に整ったために、木精達も陣形を整えて玖楼へと接近した。それを玖楼は先頭にいる4体の木精を視界に入れつつ認識し、剣を振るった。真っ二つに両断するように放たれた一撃が僅かに避けられ、先頭にいた木精の右半身をズタズタにする程度で収まる。本来なら穏やかな緑色の目は怒りの赤色に染まり、玖楼へ向けて容赦の無い一撃が振られてきた。だが玖楼はそれをよけることも無く、再び剣を振るった。木精への一撃と玖楼への攻撃があたったのは同時であった。その結果は対照的であり魔導皮膜に護られた服装の玖楼には傷一つ無く、それに対して木精はその体を縦に真っ二つに両断され、その存在を散らした。

 次へと移ろうとすると、玖楼の動きを阻害するものが現れた。足元を覗けば足首に木の根が絡み付いているのが見えた。

「チ」

 軽く舌打ちし、一瞬でも体の動きを止めたことに悪態をはきそうになって……やめる。過ぎたことは過ぎたことだと言い聞かせ、足を縛られたままに剣を振るう。3体同時に襲ってきた木精のうち2体の攻撃を剣を握っていない左手で受け止め、最後の一撃を剣で受け止める。爪の様に尖った木の根が服へと突き刺さる。だが魔導皮膜を超えることは無く玖楼に大きなダメージは無い。根を両手で吹き飛ばすと両手で剣を上段に構え、軸足とは逆の攻撃に使う右足と、手の中の剣に持っている闘気を注ぐ。

「超完璧にたぶんオリジナル技1号!」

 そして攻撃のためによってきた1体の木精を射程に入れながら剣を地面へと叩きつける。地面へと叩きつけた弾みに闘気が溢れ出し爆発を起こす。その衝撃で足を縛っていた根ははじけ、周りにいた木精も爆発により体がボロボロにはじける。

「エクスプロージョン!!」

 遅めに接近してきたために唯一体が持っていた木精の体に1回転からの回転蹴りを胴に叩き込む。蹴った先から闘気が爆ぜ、胴を中心に木精の体がバラバラに弾け飛ぶ。遠心力で加速したからだの動きをそのまま止める事無く、愛剣であるパラディウムを手槍の様にもち、

「追加持ってけぇ!」

 それを木精に投げつけ心臓を貫いて木に串刺しにする。

 今の一連の動作で5体を倒し、残り5体。残っているのは詠唱にはいっている木精が3体と、木の根で動きを妨害したのが2体。体を止めないことこそが勝利への道と、教わったことを反復するように攻撃の動作から動きを止めずに前へ出る。

 そこで、大地が割れる。

 玖楼の足元で局地的な地割れが発生する。人一人を軽く飲み込める程度には大きな裂け目。

「落ちるかよ!」

 走り、飛び、着地する寸前はともかく、地に足がついている間に地割れを起こしても回避は簡単だ。軽く飛び越えながら大地へと着地すると、その地面が裂ける。

 ……狙ってたのはこれか!

 同時に四方八方から木の根が襲ってくる。ここで終わらすつもりなのだろう、その意図が見えるコンビネーションだ。だが、玖楼はここで、こんな簡単に負けるつもりはない。昔の彼ならまだしも、今の玖楼に『この程度』で負ける理由はない。

 迫ってきた木の根の一本をつかむと、それをつかむ腕の力だけで体を前へと投げる。

「お、っらぁぁあ!」

 前へと飛びながら足を突き出し、とび蹴りを1体に食らわせ、その頭を吹き飛ばす。頭を蹴り飛ばした反動を利用しそのまま体を木のほうへ―――剣が刺さった方向へ向ける。

 ここで初めて勝機など最初から無かったことに気がついたのか、木精達が背中を玖楼へと向けて逃げ出そうとする。それに気がついた玖楼が即座に木から剣を抜き、前へと体を飛び出しながら剣を振るう。剣から2発の斬撃の塊が振るわれ、二つとも別の方向へと……違う木精に吸い込まれその存在を散らす。地面を蹴り、体を大きく飛びあがらせ、再び剣を槍のように投げつけて木精を貫き地面へと縫い付ける。

 残り1体。

 道具袋に手を入れると、そこから細長いものを取り出す。

 ―――釣竿である。

「いよっとぉ!」

 それを1回後ろへ引くと、大きく前へ振るう。釣竿から飛ばされた釣り針が木精の喉に引っかかり、木精が後ろへと倒れこむ。それを逃す玖楼ではなく、そのまま1回強く竿を引くとそのまま体を前に出す。竿の糸が切れるのと引き換えに木精の体が大きく浮かび上がり、玖楼のほうへと飛んでくる。その体へと向けて残った僅かな闘気を足に込め、前に踏み出しつつ回転蹴りを準備し―――

「大人しく、死んどけ!」

 爆発と共に最後の木精を散らした。


                  ●


 ―――しまったぁ!戦闘のテンションで何か激しく恥ずかしいセリフ言いまくったぁ!

 剣と釣竿をしまった時には既に遅く、戦闘中の自分の言動を思い返して若干ブルーになる。絶対リッチやナベリウスの様に技を使うたびに名前を叫ばないようにがんばるとか考えてたのに、それがまったく無駄で、意味が無かったことを認識する。鬱になりそう。

 そんな項垂れる玖楼へとサティアが寄ってくる。パズモは帰ったのかそこにその姿は見えない。

「頬切れてるわよ」

「え?」

 指を頬に当てると確かに頬に血が付着していた。木精は木で体が出来ているために斬られたりしても、決して血は流さないために、必然的にこれは返り血ではなく自分の傷から出た血だ。それを手の平でふき取る。たぶんだが、地割れから脱出したときか囲まれたときについたものだろう。

「これぐらいは問題ないよ」

「悪化したら大変よ!」

 サティアがきれた頬に手を当てると、頬に当てた手にわずかばかり光輝く。数秒後サティアが手を離すと玖楼の頬の傷が綺麗に消えていた。治した箇所から手を放すと一歩後ろへと下がり、なるべく傷がつかないように、と玖楼を心配する言葉を放つ。それを玖楼は苦笑しながら受け取ると、再び周りを見渡す。周りの光景をよく見ながら思案に耽る。

 ―――一体何があったんだろう、と。

 木精という種族が非常に大人しい自然の精だということは既にわかっていることであり、こうやって人を襲うケースは非常に稀だということは知っている。だから最初から木精の気が立っているように目が警戒色に染まっているのは珍しい。人に襲われればそうなるかもしれないが、書いてあるには初めてあったときからこの状態であったらしい。ならばこそ何かがおかしい。

 ……ここまで木精が警戒すべき事とは一体なんだろう……?

 それを考えれば考えるほどどんどんと泥沼にはまるように考えから抜け出せなくなってゆく。木精が恐れるものは限られており、自然を滅ぼすような災厄、強大な力を持った魔物、その程度である。そしてどちらの気配も報告も村の長の動きからしてないということはわかる。

 トン、と額に軽い衝撃が走る。

 何かと思いいつの間にか下がっていた視線を上げると、目の前にサティアの顔があった。

「うぉ?!」

「心配しすぎよ、もうちょっと気を抜きましょ……ね?」

 彼女の言葉で自分がやや強張っていた事に気づく。彼女には勝てないな、と思いつつ表情を崩す。

「そうだな。釣り糸も切れちゃったし、張り直さないといけないな」

「そう、もっと愉しいことを考えて行きましょ?」

「あぁ」

 空を見上げる。遠くで雷鳴が鳴り響くのが聞こえる。大雨が降り出すのにはそう時間はかかりそうにない。ここは素早く帰ったほうがいいと思い、サティアを近くに抱き寄せて首飾りを握る。手の中に握られた飛翔の首飾りが僅かに光を帯びる。

「それじゃさっさとかえって、ゆっくりするか」

「そうね」

 次の瞬間、二人の姿が閃光に包まれ消えた。だがこの後サティアと玖楼はこの日ほど、村から出ていたことを後悔する日が来るとは思わなかった。玖楼とサティア、二人の人生を徹底的に狂わす歴史的な大事件が彼らを待っているとは、まだ知らない……。


                  ●


 ―――同日、玖楼とサティアが北華鏡の集落を出てすぐの事。

 その日は珍しく朝から曇ってはいたが雨は降らないでいた。空気の中の湿気をかんじつつもどうする事も出来ず、朝から嫌な天気に若干辟易しつつも、若き騎士―――フェヴナンド・ミスカトルは一日の仕事に勤しんでいた。

 と言っても護衛みたいな役割を持つフェヴのやる仕事とは結構少ない。村の中を見回り、魔物が寄ってくればそれを退治し、あとは困った村人を助ける程度の事ぐらいしかない。そのため、フェヴは毎日飽きもせずただひたすら村の中を歩き回るうちに村人にそれなりに覚えられていた。一番の仕事である魔物の退治は玖楼が訓練と称して倒してしまうために玖楼がいる間はあまりやることはない。

 実際、若干困った状態ではあった。

 だがそれもすべては平和だと言う証拠として認めていた。

「嫌な天気ですね……」

 ただ、今日の天気だけはどこか気に入らない。今朝、教会で朝の祈りをささげた時もどこか嫌な予感がし、何処となくシスター共々そわそわしている感じなのだ。だからと言ってそれを表には見せない。若く、見習いと言ってもフェヴは騎士だ。その心得は熟知している。守るべき人々に不安などはみせはしない。

 だが……やっぱり気にいらない天気だ。

 どこか空気を重く感じると同時に、『まるで何かの来訪を待っている』ように雨が降らないのだ。これだけの湿気を含んだ空気、重そうな雲なのに、まだ降らないでいるのが考えを後押しするようで……。

「もし、そこのもの」

 そこでフェヴの思考が引っ張られる。何時も通り村の見回りをして、村の入り口付近を歩いているときに、見たこともない人物に呼び止められたのだ。その服装もまた不思議な服装で見たこともない形をしていた。玖楼から話で聞いた『ワフク』と言う種類の服装に思い当たるが、それを頭からどける。黒い長髪に、同じく黒の『ワフク』を着た女性は中々の美女と言えるものだが、生憎無欲に生きるフェヴにはなんら問題はなかった。

「えっと、なんでしょうか?」

「ここは、北華鏡の集落と呼ばれる場所でいいのかの?」

「えぇ、まぁ、名前も存在しない村ですがここはそう呼ばれていますね」

 世界は広く、村や集落も多い。ある程度の流通が通っている村ならまだしも、ここのような小さな村では名前なんて早々つかない。せいぜい場所か、村長の名前がつく程度である。ここもその『小さな』村の例に漏れず、名前はなく単純に北華鏡に存在する集落と言うことで、『北華鏡の集落』と呼ばれているに過ぎない。同じ名前を持つ場所は他にも存在するであろうが、おそらくここのことであろう。

「そうか……ならば始めるかの」

「始める?」

『美女』の無表情だった顔にニンマリと、嫌な笑みが浮かぶ。


「うむ。始めるのじゃよ。―――神々の黄昏を、のう」


悲劇の第一幕が開けた。
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| 神殺しで戦女神な物語 | 13:36 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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