陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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楽園 ―――ソードアート・オンライン

推奨BGM:Jubilus
*1推奨BGM:Unus Mundus


                 「一 二 三 四 五 六 七 八 九 十」

 踏み出しながら口から零れるのは歌だ。発する度に体に変化が現れる。先ずはギロチンに文様が、そして右腕に文様が浮かび、

                   「高天原に名高き悪神あり」

 左腕も赤銅色に染まる。その腕、そして左腕に握られる刃にも幾何学模様が生まれる。術の、そして魂の影響を受けて刃が中身に変質をきたし始める。それは右腕と似た変質だった。

               「我は星 天に輝き森羅万象照らす明星」

        「芦原中国平定 建御雷 経津主 我が身武威による征服敵わず」

 右手のギロチンだけではなく、左手の大太刀も性質としての変化を受け、その中身は武器から処刑の為の刃へと内部的変貌を遂げる。両の刃を逆手に握り、首元まで持ち上げて腕を交差させる。

                  「輝ける我が求道に迷いはなし」

               「今この至高の刹那を全力で駆け抜けるのだ」

 そう、今の俺には迷い等ない。あるはずがない。この道が破滅の道だと誰よりも理解している。この先が存在しない事を誰よりも感じ取っている。マリィもきっと、いや、絶対に感じ取っている。だけど何も言わずに俺と同じことを信じてくれている。苦笑して許さないとは言うけど、抱きしめてくれる。だから今、俺たちが一緒にいられるこの刹那を誰よりも、何よりも輝こう。滅ぶその瞬間まで、誰にも触れられない輝きでいよう、マリィ。


『うん。私もアキと同じことを信じているから―――』

 なら、

                     「―――創造―――」

 俺たちに敗北はない。

                    「悪神天香香背男乃神威」
                  (あくしんあめのかがせおのかむい)

 その声が、遠い昔の、何かと重なる。誰かが、何かが、これと重なる様に何かを言っていた気がする。だが、それを思い出すよりも早く―――全身、そして得物が血色の光に覆われる。同時に体の表面がチリチリと音を立てながら剥がれ、消え始める。両の刃を構え、一瞬でヒースクリフに接敵する。ほぼノータイムで放たれた斬撃はヒースクリフの首を断つために動き出す。

「学習しないな」

「お前がな」

「なっ!?」

 ヒースクリフの顔に驚愕が生まれる。それはヒースクリフの防御に入り、こちらの武器を弾き飛ばす役割を果たすはずだった得物が抵抗することもなく処刑刃を受け入れ、まるでバターの様に切り裂かれる様子があったからだ。即座にそれが致命傷へと繋がる可能性のある一撃だと判断したヒースクリフは武器を捨てて、一気に後ろへ跳躍する。そのまま武器を振りぬき破壊した瞬間、

「ふんっ!」

 ヒースクリフが新たに取り出した武器を投擲する。それは見た事もない大剣で、投擲すれば明らかにピックや投げナイフ以上の破壊力を見せる凶悪な武器だ。見た目からして魔剣のカテゴリーに入る得物だが、それは此方が纏う血色の光に触れた瞬間、

 触れた個所が消失する。

「そうか、貴様も使うか―――水銀の法を、あの忌々しき永劫破壊の法則を、創造能力を……!」

 大剣が体と武器を覆う光に触れ、その姿が完全に消失する。

 輝きよ消える無かれ。それこそが最上明広の渇望に他ならない。今、この瞬間に自分たちは生きている。未来は定まっておらず、全力で駆け抜ければ破滅は必須。それでも、この駆け抜ける瞬間だけはだれにも邪魔されずに輝き続けたい。無敵の輝きとなって阻むものを消し去りたい。それが渇望である。

 故に、体に触れる全ての敵は消滅するし、あらゆる干渉も消去させる。

 その代わりに、常に生命力が、魂を、それを削りながらでしかその光は纏えない。犠牲なしに力は生まれない。全力で駆けた後には何も残らない。それを知り、理解するからこその自滅。だが、

「後悔はない……!」

 目を青く輝かせながらもヒースクリフを見据え、一直線に接近する。既に新たな武器をラグもなく生み出したヒースクリフは迷わず回避する選択を取る。

 が、

「忘れないで欲しいな!」

 ヒースクリフの死角から二十七連撃が今まで以上の加速を持って襲い掛かる。その全てがソードスキルではない、通常の連撃だ。だがそれに乗せられた速度は純粋な技巧だけで放たれているにも拘らず、ソードスキルで出し得る速度を完全に超越していた。完全に死角からの攻撃にヒースクリフは対応できないが、

「っく、やっぱキツイ、けど……!」

 ヒースクリフに体力的変更は見られない。それはヒースクリフとキリトの間に圧倒的レベル、ステータス差があるからだろう。システム上最強の存在と俺が戦えるのにはシステムを超越し、システムの外側の法則を持って戦っているからに過ぎない。だが、キリトはシステムの内側に立っている。

 それでは絶対に勝てない。

 それでも、全く無意味と言うわけではない。事実、ヒースクリフはその動きに怯んだ。つまりダメージは存在せずとも衝撃は受けるという証拠に他ならない。だからこそ自分の行動が決して無意味ではない事を知り、キリトは攻撃をヒースクリフに叩き込む。その動きは筋力でも敏捷力でもなく、ステータスに極力頼らず技術で圧倒するための動きだ。ステータスで勝てないのなら別の部分で勝利する必要がある。

 だがヒースクリフはステータスのパラメータ差でキリトを振り払った。

「貴様は詰んでるんだよ、茅場晶彦」

 頭上から落下する。キリトへと注意が向かった一瞬に飛び上がり、ヒースクリフが予想しない方向からの奇襲。まさにギロチンと呼べるような超人的な動きの前に―――ヒースクリフは盾、そして剣に光を纏う。

 そして、ギロチンの動きを受け止める。二色の光、圧倒的優勢なのは俺の放つ消滅と滅びの光だ。それでも、それに抗う事の出来たヒースクリフの発した光の力は凄まじい。その正体は掴めないが、

「……ッハ! やっぱそうこなきゃなぁ!」

「っふん!」

 俺の体を刃ごと弾き飛ばす。少し離れた位置に数回転しながら着地し、キリトと俺がヒースクリフを挟み込むような位置に立つ。ヒースクリフの得物に宿った光は消えない―――

「―――去年三月に≪アーガス≫は莫大な負債を抱え、倒産した」

 ヒースクリフが語りだす。

「その後、SAOのサーバーは≪レクト≫のPCソリューション部門が管理している。とは言えその中身に干渉することを私は一切許していないが」

 誰かがその言葉に反応し、

「……外の……情報……?」

 それはこの世界、アインクラッドの外の世界、現実世界の情報だ。まるで何でもないかのように語るヒースクリフだが、

「てめぇ、一人だけリアルとSAOを行き来してたのかよ!」

 憤慨の声が聞こえる。それを流しながら、ヒースクリフは言葉を続ける。

「今年一月―――新VRギア、≪アミュスフィア≫が発売された。今現在諸君らが使っているナーヴギアとは違い、バッテリーを内蔵しない事で脳が焼かれるのを塞いでいるほか、他の事も考慮して様々な安全装置が積まれている。問題は改善された、正しく次世代VRギアだろう」

 ヒースクリフの真意が読めない、が、

「付き合う必要はないな」

 一気に接近する。再び刃を連続で振るうのに対してヒースクリフは得物に光を宿らせ、

「オーバーアシスト」

 一気に加速する。最大値の敏捷、その上停滞の海。この空間ではヒースクリフがあらゆる存在の数百、いや、数千倍の速さで動ける。それだけの空間を、

「効くかよぉ……!」

 血色の光が食い破っていた。あらゆるものを絡め取り沈める超加速と停滞を俺はその光のみで打ち破り、変わらぬ速度でヒースクリフに接近する。エフェクトを纏ったヒースクリフの得物と、二刀の処刑刃が短く、だが素早く何度もぶつかり合い、オーバーアシストの結界が溶ける。

「っはぁ―――!」

 瞬間、全てを”把握”していたキリトが動く。連続で振るわれる刃は動きを阻害するための攻撃で、全てヒースクリフに直撃した。だが、

「ウィンドストーム」

「おい……!」

「こりゃあ……」

 ヒースクリフを中心に発生した竜巻にキリトが巻き上げられ、吹き飛ばされるれ。俺も一瞬虚を突かれ、攻撃を繰り出される。不思議な光を纏ったヒースクリフの得物は消滅の光に存在を削られながらも、俺の体に斬撃を連続で刻む。それは筋力最大値で繰り出すようなダメージではないが、それでも確かにダメージは生まれていた。

 ヒースクリフが今、使っているものは確実にSAOには存在しない仕様だ。少なくともシステム的にこんなものがあったとは説明されていない。

「アミュスフィアの発売と同時に≪レクト・プログレス≫は―――新しいVRゲーム≪アルヴヘイム・オンライン≫をリリースした。その内容はファンタジー、剣と”魔法”のファンタジーだ」

 その言葉に、今、ヒースクリフが何を使用してきているのか理解できた。まさか、と言う言葉が誰かから漏れた。

「アルヴヘイム・オンラインはSAOのコピーサーバーから生まれたゲームだ。あの程度だったら向こうのデータを持ってくる程度造作もない―――第一、私があの道化に対する切り札を用意しないわけがないだろう」

 打ち上げられたキリトが天井を足場に、それを蹴り一気にヒースクリフへ襲いかかる。頭上から放たれる連撃をヒースクリフはエフェクトを纏った盾で受け止め、そして宣言する。

「見せてあげよう。これが水銀の蛇に対抗すべく生み出された―――心意の力だ」

 瞬間、キリトが一気に吹き飛ばされた。

 盾で防御されただけだったのはずなのに、一切の動きを見せずにヒースクリフはキリトを吹き飛ばした。そのキリトを無視し、体を加速させ一気に接近する。

 シンイ、真意、―――心意。おそらくこれが正しい読み方だ。

 ヒースクリフの周囲に火球が浮かび上がる。五十を超える火の玉が全て此方へと向かって一斉に殺到する。だが恐れず、その全てを体で受け止めつつ接近する。その先では再び光を纏わせた得物を振るうヒースクリフの姿があり、再び武器を打ち合わせあう。最初は一方的に削られるだけのヒースクリフの武器だったが、纏う光は強く、そして色は深くなっている。接触できる時間も、増えている。

「君たちはこのアインクラッドでシステムにはない不思議な現象に出会った事はないか。システム上存在しないはずなのに誰かの気配を感じた。そんな設定はないのに殺意を感じ取れた。ありえないはずなのに幽霊を見たなどと」

 思い当たることは―――ある。それが、

「インカーネイトシステム。心意システム。難しい名前をしているが簡単だ」

 ヒースクリフの得物の輝きが深まり、さらに加速を得る。それに負ける事がないよう此方も腕の動きを加速させる。その斬撃の応酬は音を置いてはなたれ、誰かが近づくことを否定する。が、それよりも、

 ヒースクリフが創造に対して対応しているのが驚異的だった。

「―――書き換え(オーバーライド)。心で強く渇望する事を現実として、書き換える、それだけだ。つまり君たちは殺意や殺気を信じた。だからこそ殺意や殺気を感じられるようになった」

 あぁ、つまりなんだ。この男はこんなに冷静に見えて実は俺の創造と拮抗するぐらいに情熱的な思想の持ち主だったと? なんだそりゃあ、笑える。超笑える。

「これが、私の切り札だ」

 足元から土の槍が出現する。これは確実にアルヴヘイムとやらからヒースクリフが引っ張ってきた魔法という概念だろう。此方の創造に匹敵するまでに強い”心意”を発動させているヒースクリフはそれを武器ばかりではなく、自分自身や発動させている魔法にも纏い始めた。

「は―――舐めるなよ」

 更に強く、もっと強く渇望する。

 体の崩壊速度が上昇する。

 流血描写のないSAOでありながら、体の各所から血が流れ始める。それを気にせず、足元から出現した土の槍を踏み潰す。先ほどまでの俺だったらダメージを与えられたかもしれない魔法も、より強い渇望を受け強度が上がった創造に無力化された。

 だからこそ、ヒースクリフは咆えた。

「正直、負けてもいいと考えていた―――貴様ら蛇の使徒以外にはなァ―――!」

 地を蹴りヒースクリフの背後に床を抉りながら回り込み、蹴りを繰り出す。前方へ飛ぶように逃れながら、ヒースクリフは振り向きざまに刃を振るってくる。到底届くはずのない刃だが、心意の光だけが伸び、首を切り落とす様に伸びてくる。それを右の刃で抑えつつ、一気に前進する。蹴った床がひび割れ、砕け、抉れる。衝撃に耐え切れず大気が破裂する。そのまま接近してヒースクリフに一撃を食らわせようとし、

「ッハァ!」

 盾に攻撃を防がれる。だがそれだけではなく、盾で攻撃を防がれるのと同時に全身に衝撃が走る。これは、

 ―――反射!

 繰り出した衝撃がそのまま返ってくる様に感じられる。自分の与える痛みがどれだけのものか把握したところで、

「オラァ!」

「ッグ」

 頭突きをヒースクリフの額に繰り出す。此方にも衝撃が伝わってくるが、それを無視して膝蹴りをヒースクリフへ向ける。

「ッフ!」

 同時に吹き飛ばされる。感じられたのは衝撃波だった。ノーモーションから攻撃とはかくも厄介だな、と思いつつも視界の隅をかすめる存在を見つける。

 黒い弾丸の様な速度で両の剣に光を纏わせるのは、

「キリト!」

「容赦はしない」

 ヒースクリフの、明らかに常人の視力の限界を超越した速度の一撃がキリトへと向けられる。それが自身へと向けられているとキリトは認識していながらも、笑みを浮かべ、

「大丈夫、何となく”理解”したし―――」

 キリトが紙一重でヒースクリフの必殺を回避する。紙一重、奇跡のように見えて違う。それは確実に回避したと言う証だ。衝撃でキリトのライフが二割も削れるがキリトは一切躊躇することなく接近する。光を纏わせた自由な動きはソードスキルの使用ではなく、キリトが心意システムを理解し、それを行使している何よりの証拠だった。

「―――なんとなく、俺は死なないって解る」

「吠えたな……!」

 まるでマシンガンの様にヒースクリフの剣による突きが放たれる。一撃一撃が衝撃波を生むほどのばかげた威力に対し、キリトは光を纏わせた刃を使い、最小限の動きで最短の道を通っていた。時々攻撃を体に掠らせながらも、

「ォオ―――!」

 ヒースクリフにも俺にも負けない苛烈さと異常性を見せつけながら切り込んでいた。

 負けられねぇよな、マリィ!

『私も力を……!』

 キリトが避け、切り払わなかった斬撃や衝撃波が襲いかかってくる。まるで意志を持っているかのように軌道を何度も変えながら襲いかかってくるそれをギロチンの一閃で黙らせ、ヒースクリフに接近する。更に早まる体の崩壊。更に強まる消滅の光。消滅の光は触れる床さえも削ぎ落としていた。だが、それでも、

「今の貴様らには断じて負けられない―――!」

 ヒースクリフがキリトと打ち合いながらも、此方の接近を察知し大きく距離を取る。ヒースクリフ、そして此方の間に炎の壁が生み出される。素早く切り払う事で炎の壁を消し飛ばすが、

「オブジェクト・クリエイター」

 熱の籠ったヒースクリフの声がする。

 言葉と共に現れたのは天井を完全に隠す量の刃だった。そのすべてが俺とキリトへと向けられ、

「貫かれろ」

 数百を超える剣群が一斉に殺到する。全力で走れば逃れることもできるだろうが―――その場合麻痺で動けなくなっているプレイヤー達の保証ができない。

「キリト頭下げろ!」

 言葉を発するのと同時に、二刀での乱舞を開始する。体を捻り、回し、動かしながら全方位へと向けて斬撃を連続で放ち。

「Je veux le sang, sang, sang, et sang―――Donnons le sang de guillotine―――Pour guerir la secheresse de la guillotine―――Je veux le sang, sang, sang, et san」

 一息で歌い終わり、一気に聖遺物としての特性を活性化させ、

「罪姫・正義の柱!」

 全方位への斬撃を放ち全ての刃を割断する。同時に、

「オーバーアシスト」

 割断され、雨のように降り注ぐ剣の破片を隠れ蓑にしながら停滞を生んだヒースクリフが一気に接近する。見えない。視界が悪い。攻めてくるのであればこの瞬間を逃すはずがない。故に気配を察知し、攻撃に備え構え―――

「―――外れだ」

 オーバーアシストが解除され、刃の破片が落ちる。その向こう側に、不動の姿でヒースクリフはいた。ただ、その手は前に突き出されており、

「燃えろ」

 炎が唸りを上げて全身を飲み込む。消滅の光が即座に炎を滅し始めるが、炎に心意の光が編まれている。ヒースクリフもただ無為に放ったのではない。確実に殺しに来ているのだ。しかし、

「一人じゃ、ねぇんだよ……!」

 ギロチンを振るい、炎を引き裂く。体が脱出した時に見えたのは、ヒースクリフにたどり着き攻撃を繰り出す姿だ。キリトだ。もはや確信できた。キリトが感じているのは勘なんていう生易しいモノではない。キリトの身に何が起きているのか理解し、沸騰しそうな頭を無理やり抑え込み、それを燃料に更に渇望を燃やす。皮膚が剥がれ、その内側のポリゴン構造が見え始め、全身が血で赤く染まる。

「メルクリウスてめぇええええええええ!!」

「あぁ、解るぞその憤り、その怒り。だからこそ今の貴様らにだけは負けられないのだよ! 二刀流はこのアインクラッドで最高の反射神経を持つ人間に授けた―――それはもちろん水銀の汚染を受けていない人間に限っての話だ。私は二刀流を与えたプレイヤーに勇者の役目を、私を倒すための役割を持たせ、討たれる事を良しとしたが―――認めない。このような展開は断じて認めない」

 床から氷の蔦が生える。鞭の様に姿をしならせながらそのすべてがヒースクリフに接近するキリトを殺しにかかる。それはキリトを勇者として認識しているのではなく、水銀の―――既知の汚染を受けた外敵として排除にかかっている。

「お前の価値観で―――」

 迫る蔦をキリトの二刀が切り裂く。心意を滾らせ、キリトはこの場で急激な成長を見せている。戦いたい、目の前の存在に勝てるように、そうなりたい。その思いはキリトを裏切らず、

「俺を勝手に決めるな!」

 音速の連撃を確実に把握するようになっていた。視認が最上級のプレイヤーですら難しい連撃の全てを捉え、そして排除しながらヒースクリフへ一歩一歩、確実に踏み出していた。だが、やはり、まだ足りない。

「ゼロ・アウト」

 ヒースクリフの手がキリトへと向けられ、死の閃光が放たれる。ゼロアウト、それはつまりゲームサーバーからの完全なデータの消去。ファイルの痕跡すらも完全に消滅させること。ヒースクリフが放ったのはそれだ。閃光に触れたデータをSAOサーバーから完全に消し去り、回復の意味すらなくしてしまう閃光。心意と言えどもその根元から消し去ってしまえば意味はない。

「これが慈悲だと知れ」

「死ねるかよぉ!」

 横へ飛びながらもギリギリ防御の間に合わない場所を魔剣≪エリュシデータ≫でキリトが防御する。

 接触の時間は刹那。

 その瞬間にキリトは完全に回避し、

 そしてエリュシデータはその存在を完全に消失した。もう二度と、アインクラッドに同名の武器が現れる事はない。それでも、まだキリトを消し去ろうとする光を、

「オォォォ……!」

 ギロチンで叩き斬る。正面から質量を持たぬ、消滅の光を此方の創造でさらに消し飛ばす。消去と言う概念においては絶対に負けない。それで劣ってしまえばもう勝ることはないから。だから、ギロチンの一閃と共にヒースクリフの一撃を完全に滅する。

「虫の息の様だな、サイアス」

 実際、ヒースクリフが言う様に俺は虫の息だ。キリトも追い付くだけでほぼ限界に達している。どんなに超越しても、フレーム内の超越では意味ない。それこそ現実へと流出するレベルでの超越でなければ圧倒することは叶わない。俺の体は創造を維持するだけで限界に近づいている―――初めにライフをゼロにされた事が聞いている。万全の状態で発動したのであればもう少しましな結果だったかもしれない。それはただ単純に俺が馬鹿で、頑固で、

『アキ!』

 あぁ、解ってる。

「キリト」

 隣のキリトに言葉を贈る。

「俺さ、リアルに弟がいるんだ。正樹っつーの。俺よりも全然若くてウチの親のハッスルで生まれたんだけどさ、出がらしとかじゃなくてマジ優秀で―――ちょっとマジメすぎるんだわ」

 一番の心配はアイツの事だ。少しだけ真面目すぎるから、俺が死んだら俺の後を追ってきそうで少しだけ怖い。俺みたいな不良の後ろをついてこなくていいのに、子犬の様に追いかけて俺たちの馬鹿に巻き込まれて……成績はいいのに俺達といるせいで評判は悪い。

 馬鹿で可愛い弟だ。

「……サイアス?」

 そこで一旦区切る。どうやらヒースクリフは此方が会話することを許してくれているようだ。ありがたい。だがそれが戦闘中の油断や慢心につながらないのが残念だ。一瞬でも、思考を停止させれば―――勝てる。

 だから。

「キリト」

「なんだよ」

「俺が隙を作ってやる。最高のタイミング、最大のチャンスを作ってやる―――殺れるな」

「おう」

 言葉に即座に返答が返ってくる。だから、踏み出し、処刑刃を構え、前進しながら、叫ぶ、

「俺は―――サイアスじゃねぇ」

 そう、俺は、

「俺の名前は―――最上、最上明広だ! その名前、来世にまで刻めぇ……!」

「礼儀に則り応えよう、茅場晶彦―――この世界の王だ!」

 最後の交差が開始する。


                           ◆


「ァアオオオ―――!!」

 既に内部構造まで見え始めているポリゴンアバター。それを覆う消滅の光を限界まで輝かせる。それに呼応するように、

「ォオ……!」

 ヒースクリフの纏う心意の光が更に強まる。共に正面からぶつかり合う。右の刃で左手の剣を、左手の刃で右手の盾を。一瞬の接近から衝突。その衝撃で周りの石畳が砕け、そして地面が陥没する。ぶつかり合った瞬間から互いに一歩も引かず、

「おおおおおおおお!!」

「ぬううううう!!!」

 武器を押し合い、相手を潰そうと動く。だが退かない。どっちも一歩も引かない。周りに破壊をまき散らすだけで一歩も動かず―――

 ピシリ、と腕に亀裂が走る。瞬間、ヒースクリフからの圧力で一気に腕の崩壊を進め、

 左手が肩から指の先が完全に砕け散る。衝撃に耐え切れず羅刹が弾かれ、そして体も弾かれる。

「これで終わりだ断頭の剣鬼―――」

 迫る刃に対して、

「予想してんだよぉ―――!」

 紙一重で、本当にギリギリのタイミングで攻撃を回避する。それこそ自分の腕の崩壊を計算に入れているからこその動き、その先を予想していたから出来た動き。圧倒的に不利な状況にこの先陥ることを理解しつつも、一瞬の勝機を得るための必要な犠牲。

 次に繋げるための犠牲。

「―――花の命は短きかな……!」

 絞り出す様な掠れ声で詠う。

「森羅万象諸行無常、儚き世は美しき―――」

 今までとは違う消滅の概念を込めた刃を振るう。が、その攻撃は緩く、そして遅い。今までのありとあらゆる攻撃と比べれば止まって見える。だから、ヒースクリフの動きは的確にそれを防ぎに来た。盾を前に、心意の光を宿し、

「破邪顕正ォォ乃太刀!」

 正しく魂の一撃だった。心の底から、全てを吐き出すように放たれた斬撃は緩くだが、ヒースクリフの盾に触れ―――ありとあらゆる”邪”を消し去った。ヒースクリフに宿った圧倒的なステータス、心意の光、システム権限、そのすべてが消し去り、等身大の”茅場晶彦”のみがその場には残されていた。それだけが、残されていた。ありとあらゆる”装飾”を邪とし、それを削ぎ落とし滅する事で正とする太刀。

 だが、それも永遠ではない。時間が経てばまた復活する。再生が始まる。弱り切った状態ではヒースクリフを完全に無力化させることは数瞬しかできない。決定的な隙、最大の好機、だがそれを役立てるだけの力がもうサイアスにはない。

だからこそ、

「これは―――」

 だがヒースクリフには見えた。

 システムを超越した存在すらも断ち切れる様になった大太刀を片手に、そして自分の魂を込められる程に愛用してきた愛剣をもう片手に、涙を流しながら構え、接近する黒の剣士の姿に。

「まさか……!」

「あぁ、それでいい、後悔するんじゃねぇぞ。先にあの世で待ってるぜ―――カメラード(戦友)」

「オオオオオオオオオオオオ―――!!!」

 全ての音をかき消す様な咆哮を上げながら、

 心意、そして創造の解除された体に刃が貫通するように突き刺さった。一撃では終わらない。二撃、三撃、四撃。

 全ての攻撃が体を貫通してヒースクリフに突き刺さり、ヒースクリフを殺しているのが解る。そして、自分の体がポリゴンに変換され拡散して行くのも解る。今まで死亡から守ってくれていた創造は存在しない。消えてしまった痛覚とは別に刃が体を抜ける感触を感じつつも、

 ……ごめんな。

 何もしてあげられなくて。何もあげる事が出来なくて。ずっと酷い目に合わせてきて。ごめんね。

『いいの―――そんなところも全部含めてアキが好きになったから……だから、次は、一緒に』

 あぁ、次は一緒に、

『幸せになろう』

 消えて行く意識、何かが聞こえる気がする。それでも、最後に絞り出した言葉は、

「マ、……リィ……」

 意識が完全に消え去る。


                           ◆

*1


「―――これにて喜劇は閉幕。星は闇に沈み英雄は日の光を浴びる。茶番にしては中々良いものであったと貴方は思わないかね獣殿? あぁ、安心なされよ。―――この程度で物語を終わらすつもりは私にも毛頭ありはせぬよ。私は貴方との盟約を果たすつもりだ。この友情に賭けて誓おう。次は貴方が少しは遊べる舞台を用意しよう。妖精郷でナイトが姫君を救出など中々面白い趣向だと私は思うのだがどうだろうか。あぁ、退屈させない事だけは約束しよう―――それでは次の舞台が整うまで。えぇ、彼らには英気を養ってもらうとしよう。ふふふ、ふふはは、ふ―――ははははははははははははは―――!!」




名前:悪神天香香背男乃神威(あくしんあめのかがせおのかむい)
位階:創造
発現:求道
原典:葦原中国平定・神道
渇望:「誰にも邪魔されない輝ける刹那でいたい」「駆け抜けた先には不可避の破滅が待っている」
能力:
 その能力は自壊と引き換えに全てを消滅させる光となる事。渇望すればするほど自壊、そして消滅の光は強まり、光に触れた存在は光に勝る強度を持つ存在でなければ触れた瞬間に消え去る。最上明広はこの創造をうまく利用し、渇望と結び付け剣術に利用したりもしていた。
 発動したばかり、それでいて渇望の強さによってその出力が変わるというかなり不安定な創造だったが、ヒースクリフ戦で使用されたのが初めてであり、生まれたての渇望の為その力は十全に発揮されていない。万全であり、創造に慣れていれば消滅の光そのものに成れたかもしれない。その性質上、逃げに徹されると自滅しか残っていない諸刃の剣である。

詠唱:
「一 二 三 四 五 六 七 八 九 十」
「高天原に名高き悪神あり」
「我は星 天に輝き森羅万象照らす明星」
「芦原中国平定 建御雷 経津主 我が身武威による征服敵わず」
「輝ける我が求道に迷いはなし」
「今この至高の刹那を全力で駆け抜けるのだ」
「―――創造―――」
「悪神天香香背男乃神威」
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| 断頭の剣鬼 | 18:33 | comments:9 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

おいニート…! てめぇのせいで読了した後の気分が一気にアレな感じになったよ、どうしてくれんだコラァ。

というわけで相変わらず水銀はうざく、アスアスとマリィとキリトさんと茅場さんはカッコよかったですね。
明広大丈夫かなぁ…助かる展開になるのは予想できるけど、どう助かるのか予想できないですねぇ。
続きが楽しみです。
というか魔法が出てくるとは予想外。

| ろくぞー | 2012/08/21 19:24 | URL |

 おぉ……! サイアスさん――いや、最上明広さん超カッコいい……!
 にじふぁんの時より主人公度がアップなされてる!

| サツキ | 2012/08/21 19:36 | URL |

まさかの連続投稿で完結。てんぞーさん、あんたの執筆時間って本当一日のどんだけ(笑)
にしてもアスアスの主人公具合が右肩上がりだw
ヒロイン度が過多なアスアスも懐かしいけど、新しい創造に詠唱、キリキリの汚染におあずけな黄金閣下、そして我等が女神の活躍が増量と新しい断頭にはほんと活力いただいてます(≧∀≦)

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/08/21 21:05 | URL | ≫ EDIT

に、にーと……最後の最後でテメェッてやつぁ……!
しっかしサイアスさんこれ、リアル戻って出版された本で超有名人になりそう。なにこのイケメン。

| 羽屯十一 | 2012/08/21 22:33 | URL |

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| | 2012/08/21 23:09 | |

ここのサイアスさんはにじふぁんとは渇望も若干違うから創造の内容や容姿の変異も違うし、相棒も大太刀の羅刹のままだし、石上神道流使わないし、形成で人器融合じゃなくて武装具現だしとまさに未知だね。おまけに水銀の法によって何度か回帰してるっぽいし。あれじゃね?にじふぁんのサイアスさんがアンダーワールドでKKKの夜刀さまっぽい行動してアボンしたあと、水銀に回収されてまた回帰した後の物語じゃないかな。マリィルートからKKK行ってまた玲愛ルートに戻ったみたいな。

とまあこちらの意見はおいといて、サイアスもキリトもついでにヒースクリフもいい男っぷりでした。ALOもwktkしながらまってます。ジークハイルヴィクトーリア!!

| 天魔空亡 | 2012/08/22 02:52 | URL |

なんか詠唱はいろんな人のが混ざっててアレだけど、にじファンのころよりサイアスがかっこいいね!

| | 2012/08/22 04:27 | URL |

感想は一つ。
ニート超ウゼェェェェッ!!

妙に介入が少ないと思ったら最後の最後で介入とは。


しかし、にじふぁんの頃と様子が違いますね。

他の方もおっしゃるように、にじふぁんでの波旬戦の後、水銀の必殺ちゃぶ台ひっくり返しで回帰したのでしょうか。

いずれにしても、いつも楽しみにしてます。
執筆頑張って下さい。

| 断章の接合者 | 2012/08/22 09:05 | URL |

ニートウゼェェェェェ!

それにしてもキリト君の奥さんなのに一言も喋らないアスナェ・・・

| おk | 2012/08/22 16:14 | URL |















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