陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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楽園 ―――アンサリング

*1推奨BGM:Dumme Marionette


 ボスが完全に沈黙するまでにかかった時間は一時間を超えた。異常なまでの攻撃力、そしてライフの高さを持ったスカル・リーパーは簡単に死ぬことを良しとせず、隙を見つければプレイヤーを引き裂き、あっさりと殺した。もはや直撃すれば死ぬという事は共通の認識であり、即死以外で受けるダメージは削りダメージによるのみだった。

 その場にいるほぼ全員が体力を半分以上減らしていた。

 そう、ほぼ全員。その中での例外は―――俺とヒースクリフに他ならない。

 誰もが疲れ切った様子で石畳に倒れている中で、俺とヒースクリフだけが悠然と、疲れを見せないで立っている。周りからすれば異常の極まりなのだろう。

 だが、今回一緒に戦って分かった。こいつは―――


                           ◆


「はぁ……はぁ……」

「か、勝ったぁ……」

 荒い息を吐き出しながら冷たい石畳に倒れこんでいる。雨でぬれていた服装は戦闘中の動きによって乾燥しているが、今度は汗で濡れているように重く感じる。それだけの疲労を体に得ている。倒れて、アスナと繋いでいる手が今、自分が死んでいない事を何よりも証明している。

「は、はは……ざまぁ見ろ……俺たちの勝ちだ」

「……うん、そうだね。私たちの勝ちだよ」

 サイアスに、証明できた。生き残れた。とりあえず俺たちが正しいと証明できた。だから俺たちの勝利だ。誰にも文句は言わせないし、これからも言わせない。これから先も言わせるものか。これが、俺とアスナの絆の形なんだ。出会いが攻略会議という戦いに関係する場なら、結ばれたのはダンジョンという戦いの場所だ。やっぱり田舎で暮らし続けるのは少し刺激が少なさすぎて無理だ。うん。じっとしているのは無理だからこれで正しい。

 だけど、

 やっぱり、勝てないなぁ……。

 視線を動かすと、先ほどまでボスと戦っていた場所、部屋の中央でヒースクリフとサイアスが背中を向けあうように立っていた。悠然と、疲れを見せずに立つ二人の姿は異常だ。丸一時間休まずに剣を振り続けていたのに一切疲れを感じさせない。それどころか、

 二人の頭上のライフバーはいまだに安全圏を示すグリーンゾーンにあった。

 サイアスは解る。多少まともに食らっても死なない。いや、死ねない。それだけの存在になっていると知っている。攻略に参加しなかったのはあの体になってしまったからで、今回参戦してきた理由は解らない。が―――ヒースクリフ。

 サイアス以上の異常だ、こいつは。

 ユニークスキルである神聖剣を習得していること以外では確実に普通のプレイヤーだ。普通のプレイヤーであるはずなのに、ヒースクリフは異常な冷静さと機械の様な正確さを持って”すべての攻撃を見切っていた”のだ一回見ただけで、というレベルではない。もはや最初から知っていなければ不可能というレベルの動きだった。それにそうだ、あの戦い。コリニアでの一対一の戦い。あの最後は違和感しか存在しなかった。まるで見てはいけないようなものが見えてしまった、そんな違和感だ。

「……」

 疑惑が生まれる。ドス黒い、汚い考えだと思う。だけど―――確かめなければならない。

「……キリト君?」

 指を口元まで持って行き、アスナに静かにするようにサインをしてから、

 ―――投擲用ピックを取り出し、全力でヒースクリフへ投擲する。

 *1

「……ッ!」

 それにギリギリ反応したヒースクリフが動く。体を横へ動かし、命中するはずだった攻撃を回避し―――

「よぉ、どこへ行くんだ大将」

 鬼の様な、威圧する笑み浮かべたサイアスが逃げた先で、ヒースクリフの首を打撃する。「刃ではなく、峰側だ。故に命中しても首は飛ばされない。だが、それでも、

「……おい、待てよ……」

「は、ははは……」

「……」

「え、ちょっと待ってよ、だ、団長……?」

 ヒースクリフの体力はサイアスの常識外の一撃を食らい、一撃でライフバーを一気に減少させた。あの威力の恐ろしさは知っている。普通のプレイヤーが食らったりでもすれば一撃で死ぬ。それだけの衝撃を受けながらもヒースクリフのライフポイントの減少は半分で止まり。

 ≪Immortal Object≫―――不死設定と現れ、ヒースクリフのライフの全損を封じた。

 ヒースクリフがバックステップで距離を取るが、決定的瞬間は既に周り完全に目撃されていた。達成感、そして寂しさを感じつつも、完全に体を起き上がらせる。視線の先で、少し困った様子のヒースクリフが前とは違う種類の視線を受け止めながら立つ。

「何時から私の事を?」

「対戦した最後で」

「あぁ」

 納得した様子で頭を軽く振った。そうか、とつぶやくヒースクリフの姿には罪悪感は欠片も見えない。

「あの時は君が予想外の動きをしてくるから対処が間に合わなくてな……オーバーアシストを使うのは不味いと解っていたが、そうか」

「まぁ、他にもいろいろあって前々から参加してるんじゃないかなって思ってたんだけどな」

「ほう?」

 だってさ、

「誰かが遊んでいるゲームを見るほど、つまらない事ってないだろ。そりゃあ動画で遊んだゲームをアップロードした物とかもあるけどさ、目の前に遊べるゲームがあって好き勝手出来るんだぜ? やっぱ参加している方が楽しいよな。なあ、そうだろ?」

 ここはお約束に、犯人を指さす様にポーズをとって、

「なあ、茅場晶彦」

 部屋が重苦しい雰囲気に包まれる。


                           ◆


 誰かが体を動かす前に、ヒースクリフが素早く口を動かす。

「ステータスシフト・パラライズ。除外対象≪kirito≫」

 ヒースクリフがそう口にした瞬間、俺を除く全てのプレイヤーが地に膝をつくか、石畳に倒れた。ライフバーの下に存在する状態異常のアイコンは、

「麻痺」

 今のヒースクリフはGM権限を使用し、この場にいる俺と自分を除く全プレイヤーに麻痺の状態異常を与えた。だから立っていられるのは俺だけだ。此方もインベントリを開き、そこからポーションを取り出すと蓋を投げ捨てて中身を飲み干す。この先の展開は大体予想できる。

「キリト君」

「なんだヒースクリフ。それとも茅場晶彦って呼んでほしいか?」

 言葉が若干刺々しなっているのは仕方がないだろうく。目の前に居るのはこのアインクラッドを生み出した元凶で、多くの死の原因でもある。それを許しておけるお人よしなどこのアインクラッドにはいない。誰もがこの男を殺したがっている。

「好きな方で結構だ。それよりも―――一つ勝負をしないか? 私に勝てたらこの世界を終了させると言う実に簡単なルールだ。不死設定はもちろん解除する。どうだね?」

「止めろキリト! そいつはお前を殺す気だ!」

 そんなの見てわかるよクライン。

「考え直せキリト! ここは一旦引いて―――」

「退くのも逃げるのも迷うのも、もうなしにしてるんだ」

 クラインに続き言葉を発していたエギルをそれで黙らせ、背中の鞘に一度収めた剣を再び抜く。エリュシデータとダークリパルサー。どちらも俺が魂を預ける最高の得物だ。そして、奴を、

「ヒースクリフ」

 この名で呼ぼう。お前は確かに茅場晶彦としてこの世界の神として君臨していたが、それでも確かにヒースクリフとしてこの世界で生きていた。それに茅場とも晶彦とも呼ぶのはどこか違和感がある。ならばいい慣れた名前を使う方が断然いいに決まっている。

「なんだね?」

「お前が負けたとして、俺たちが解放される保証はどこにある?」

 それを問うと、ヒースクリフが素早く返答を返してくる。

「私は君たちと同じルールに縛られている。私も死ねば脳を焼かれる。そして私が死んだとき、自動でログアウトするようにこのゲーム自体が設定されている。……これで満足か?」

 目の前でヒースクリフは不死設定を解除して見せた。

 あぁ、

 詰みだ。

「そうか―――さようならヒースクリフ」

「なにを―――ッ!!」

 ヒースクリフが反応できる速度を超えて、今まで麻痺している”フリ”をしていたサイアスが音速を突破して大太刀を振るう。素早く、コンパクトに、しかし的確に、逆手に握った左手の大太刀を不死設定の解除されたヒースクリフの首に叩き込む。

「アウフ・ヴィーダーゼン、ヒースクリフ」

 ヒースクリフの首に大太刀の刃が大きく食い込む。ヒースクリフのライフバーは目に見える速度で完全な状態からゼロに減って行っている。勝利が目前に見えた直後、

「遅かったな」

「ッ、ク」

 サイアスが吹き飛ばされた。大きく、常識外の筋力で殴られたかのように吹き飛ぶサイアスは空中で体を丸めて回転すると音もなく着地する。まるで待っていたとばかりのヒースクリフの発言は、サイアスの行動を予想していたことを意味している。正直な話、ヒースクリフが一体何手先までを読んでいるかが把握できないのが一番怖い。

「まぁ、隙を窺っていたんだが……騙しやがったな」

「君も中々の演技だったよ。水銀の傀儡かと思っていたが、それだけではなさそうだな……まぁ少々食わされた、と言う程度だろう―――リゲイン・イモータリティ」

「あ」

 ヒースクリフを不死設定が再び守護する。今の一撃はサイアスの超人的な能力への信頼、そして我慢してくれるという事を信じて注意をひきつけてできた事だ。事前説明もないアドリブだが、上手く行ったと思った。だがこうなってしまえば―――

「―――砕けぬ星よ閃光となって輝け」

 サイアスに任せる他に手段はない。

「形成―――罪姫・正義の柱」

 サイアスの右手に処刑刃が出現する。見たもの全てに不快感と強烈な死のイメージを植え付ける処刑の為だけの刃。明らかな不快感を与えるその刃は今見れば解る、心の弱い人間であればたちまち”魅入られる”。そこに内包された処刑の意志に抗えない。断頭を行うためだけの処刑刃、それがサイアスに握られるあの刃の役割り。相も変わらず戦闘を考慮しない刃だが、処刑に関してだけはどの存在にも負けない恐ろしさを誇っている。

 左手に大太刀を、右手に処刑刃を、両手に得物を握ったサイアスは、

「水銀を知ってるのならこれを食らったらどうなるかってのも、もちろん解ってるんだよなぁ!!」

 再び音の壁を超越した。音の壁を超越するのと同時にその動きにソニックブームが付随する。そこまで律儀に再現するソードアート・オンラインのシステムに驚きつつも、一瞬で加速したサイアスの動きはヒースクリフの首を落としにかかっている。それこそが処刑刃が最高の力を示し、そして確実に殺せる位置。

 だが、

「あぁ、理解してるともさ」

 ヒースクリフは盾と十字剣でサイアスの攻撃を防いだ。そして同時に、

「ステータスシフト・ストレングスマクシマイズ」

「ははっ……」

 交差するように放たれた斬撃をこじ開ける様にヒースクリフが攻撃を放ち、サイアスの体を蹴り飛ばす。

「っが、はは……」

 吹き飛ばされながらも、サイアスは再び空中で体勢を立て直そうとする。が、それよりも早く、

「ステータスシフト・アジリティマクシマイズ」

 SAOというゲーム上設定できる最高の敏捷力と筋力を持ってヒースクリフの十字剣から刺突の一撃が放たれる。サイアスの体の動きを上回るそれはソニックブームを生み出し周りに暴風を生み出しつつ、一瞬でサイアスの胸に突き刺さり、そのまま体を大きく吹き飛ばす。

 今度こそありえないと思える光景だった。

 あのナハトとジューダスとさえ戦って見せたサイアスが、一方的にヒースクリフにいいようにされていた。サイアスのその姿には何か違和感を感じる。今までの戦いにはない、何かがある。そして今までのサイアスにはあった何かが決定的に欠けている。それが何かは解らない。だが、何か、何か大事なことが見えていない気がする。

 視線の先で、サイアスが胸に穴を開けながら着地する。目に見える速度で穴はふさがり、ライフバーも回復している。逆手の二刀を構え直すサイアスは前に踏み出そうとして、

「―――ステータスシフト・ヒットポイント・トゥ・ゼロ」

 ヒースクリフが先ほど行使し、今行使したのもGM権限だ。最初が不死設定の復活、次が筋力の最大値化、次が敏捷力の最大値化。そして、今のが―――

「ぁ―――」

 サイアスのライフポイントが、一気にゼロになり、踏み出す形で動きが止まる。手から得物が零れ落ちる。

「はは、やっぱりか―――」

 儚い笑顔を浮かべてサイアスの動きが完全に凍りつく。

「ここで死ね。水銀の傀儡として死ぬよりはここで死んだ方がまだ幸いだろう」

 ヒースクリフが神聖剣を握り、サイアスへと踏み出す。

「あの道化が何かをする前にトドメを刺そう。それが最善の判断だろう。あぁ、決して油断などしない。卑怯などと罵るか? 好きにしろ。私はあの道化を絶対甘く見ない。アレは毒だ。全てを殺す毒だ。その傀儡である貴様らに対して私は一切の情も油断も見せはしない。故に、ここで消えろ」

 その声には、前まであった感情の欠片もない。あるのは排除、その意思だけだった。

 ヒースクリフの動きを見て即座に体を動かす。だが遅い。ヒースクリフの動きと比べると圧倒的に遅すぎる。届かない。ライフポイントがゼロになり、サイアスが砕けるよりも早く、ヒースクリフが引導を渡しに動いている。十秒経過して砕けるか、もしくはヒースクリフが抵抗力のなくなったサイアスのアバターを砕くか。どう見ても死は確定的だ。

 ―――確実に、サイアスが死ぬ。
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| 断頭の剣鬼 | 08:54 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

ちょっ、サイアスゥーー

ヒースクリフがGM権限で相手のHP0にできるとか、無敵すぎるw

| tk | 2012/08/21 09:19 | URL |

あー。まぁ……ね。
世界のルールそのものから外れたようなのに茅さん手加減しなさそう。
そしてGMと言えばアカバン。おそろしやー。
サイアスがんばれ。ちょうがんばれ。

| 羽屯十一 | 2012/08/21 10:09 | URL |

うぉぉおおおぃ! サイアスさんのピンチ!
閣下ー! 閣下出番ですよーあ、女神でも可です(笑)
サイアスさんが人外の域で、ヒースクリフがシステム上で無双、キリキリは残念ながら蚊帳の外、オィ主人公(泣)

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/08/21 10:27 | URL | ≫ EDIT

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| | 2012/08/21 10:41 | |















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