陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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楽園 ―――プロッティング

 ……注目されてんな。

 周りの視線が自分に集中していることを自覚する。贔屓目に見ても確実に人気者だ。もちろんいい意味ではなく、悪い意味でだ。此方へと向けられる視線の多くは恐怖や嫌悪の視線だ。大粒の雨が容赦なく打ち付けてきているのにここまで嫌悪の視線を送ってくるとは中々のものだと思う。

 さて、

 申し訳程度に邪魔にならない様に転移門広場の端の方に移動し、設置されているベンチに座り、足を組んで腕を組む。装備は変わらず赤のフード付き衣に篭手と具足、その下にレザーのパンツ、そして上半身は黒いシャツ。

 最後に、首には斬首痕を隠すためのマフラー。

 変わらない姿でいるのだ。

 そりゃあバレる。


 知った顔が近づいてくる。

「おー! 久しぶりじゃねぇか!」

 クラインだった。この男も装備は変わっているはずなのにグラフィック的な変化は全く見れない。お抱えの職人にデザインを統一でもさせているのだろうか。ともあれ、この男だけは何が起きてもリアクションは変わらないようだ。その事にどこか安心をしつつ、

「よぉ」

「おいおい、参加するなら言ってくれよ」

「ま、そんなわけだ」

「水臭ぇなあ」

 クラインの背後では不安そうな表情を浮かべる他のプレイヤー達の姿が見える。

「クライン」

「おう? うっした?」

 クラインの後ろ側を指差す。指を向けられたプレイヤー達はビクっと身を動かすが、

「心配してるし、お前の評判に響くからあまり俺とは関わるな。あとついでに俺は狂犬じゃないって説明してくれると助かる」

「あー……」

 クラインが申し訳なさそうな顔をしてくるが、こいつがそういう顔をするのは筋違いだ。そんな風に申し訳なさそうにする必要はお前にはないし、他の誰にもない。自分で選んだ道の結果こうなったのだから、責任は俺がとる。と、言うのは恥ずかしいのでやっぱり口にしない。ただ無言の圧力でクラインの退避を促し、元の輪に返す。

 クラインが去って他のプレイヤー達と話に戻ったところで、軽い欠伸を噛み殺しながらぼぉっと周りの状況を見つめる。

 面倒だなぁ。

 視線ではない。状況がだ。自由に動けない立場が……いや、これは立場ではない。制約だ。自分が自分に与えた制約だ。何かに理由をつけるのは悪い癖だと理解しているが、どうしようもない事だ。

 面倒臭ぇ。

『めんどうめんどうって言ってると、まともな人になれないよ?』

 その知識はどこから……あぁ、俺からか。ならばマルグリットの言葉はすごい自虐だな。そりゃあ笑える。

『私は別にそんな意味で……』

 それは知っているが人間、見る事聞くことにフィルターをかけている。情報が正しく伝わる事なんてほぼない。それは期待するべきではないのだ。世の中の八割が欺瞞に歪められているから、あぁ、何かまた自虐してる。いい加減止めたい所なのだが、

「どうなんだろうねぇ」

 と、呟いたところで転移門が光る。それはこの場所への新たな侵入者を知らせる光だ。その中から現れるのは二人組だ。最初は光に包まれその姿をうまくとらえる事が出来ないが、すぐさまに雨に濡れるその姿が見える。

 全身黒一色のその姿、

 見えた瞬間、体が動き出す。


                           ◆


 圏内での物理的干渉には幾つかルールがある。

 まず最初に直接体に触れる事が出来ない。体に触れる前にシステムのガードが防御に入るからだ。次にエフェクトが発生する。それは衝撃の強さ、レベルによって色が変わるが、基本的に威力が高ければ高い程にエフェクトは派手になる。最後に衝撃はそのまま通じる。今回の場合、派手なエフェクトと音と共に広場の端まで吹き飛ぶ姿を見れば、その衝撃の強さが一瞬で解る。そして隠れる気が無いので、それを行った犯人も簡単に断定できる。

「サイアス! 何やってんだよお前!?」

 悪いな、クライン。

 派手なエフェクトをまき散らしながら吹き飛んでゆくキリトにはいい一発をぶち込んでやったと自負している。

『アキ、また恐れられちゃうよ?』

 そんな事今更どうでもいい。理解してくれる少数の人間がいれば……いや、いなくても俺は十分に戦っていける。だから、

 殴り飛ばしたキリトに加速することで一気に追いつく。保護コードが発動しないギリギリの力加減で追いついたキリトの首を掴み、石畳に叩きつける。誰かがキリト、と声を漏らすのが解る。後ろにいるのはアスナだ。彼女の気配は知っている。だが彼女も動かない。それはつまり―――

『罪の意識があるって事だよね?』

  そう、なのだろう。目の前、掴んだキリトは言葉を選べずに申し訳なさそうな顔をしており、どこか困った様子だ。おそらくどんな言葉を言えばいいのか解らないのだろうが―――

「サイアス」

「言いたい事はなんだ」

 雨に濡れて、到底人に見せられないような表情を何とか影に隠し、キリトが口を開くのを待つ。

「俺とお前は違う」

「……」

「違うんだ」

 視線が集中する中で、雷鳴が頭上で鳴り響くのが聞こえる。もしかしなくとも過剰反応だったかもしれないが、一回殴り飛ばさなきゃ気が済まない。アレだけ幸せそうな姿を送ってきてくれておいて、その結果前線に戻ってくるなんて暴挙をしでかしてくれたこいつは―――

「チッ」

 掴んでいたキリトの首を放し、元の位置へと戻ろうとする。が、その途中でアスナが

「その……聞きました」

 何がと問う必要はない。確実にトウカの事だろう。キリトめ、余計な事をしたな。だがキリトもアスナも謝らない事を考えると―――自分たちが正しいと思って疑っていないのだろう。いい。それでいいのだ。そこで謝りでもしたら正直あと何発か殴っていた。貴様の主義や主張、思想はそんなにも変わりやすいものなのか。俺が守ろうとしたものはそんなにも脆いものだったのかと。あぁ、なんだか頭の中がごちゃごちゃしてきたが、とりあえず、

「ああ……もう、いい……」

 顔を押さえて、再び広場の隅に移動する。まるで誰かが死んだかのように転移門広場は静まり返っていた。やっぱりやってしまった、という考えはあるが別段後悔しているわけでもないのでどうでもいいと思う。


                           ◆


 そこからヒースクリフが登場するまでは数分かかった。傘をささずに、雨に濡れながら周りを見渡すヒースクリフの視界に映る光景はまるで通夜の様だった事だろう。士気の低さに驚きがあっても仕方がなさそうだが、別段驚くこともなく、キリトとアスナを見つけ、

「諸君の加勢に感謝する。今回は君たちが来てくれたおかげで少しは楽になりそうだ」

「勘違いするな。俺たちは自分の意志で参加を決めたんだ。決してお前に言われたからじゃない。俺は俺の意志で進む。それだけだ」

 キリトのそんな声が聞こえて、まあ、少しは許さないでもないと思う。暇つぶしにインベントリを覗き込み、装備の説明文でも読もうと思った矢先、

「まさか君まで来ているとは予想外だったよ」

「あ?」

 顔を持ち上げると、前にヒースクリフがいた。何か言おうと口を開く前に、

「黙れ」

「……」

「……」

 ヒースクリフを黙らせ、無言の圧力をヒースクリフへの返答とする。ヒースクリフも此方が会話する気がないと判断したのか鎧についているマントを翻し、

「攻略での活躍を期待している」

「……」

 ヒースクリフが転移門広場の中央へと歩く姿の一挙一動を見逃さず見つめる。見られているのは解るのだろう、少量の気配を此方へと向けてきている。そして広場の中心へ到達したヒースクリフは周囲の注目を受け、

「これより七十五層のボス攻略を開始する」

 簡潔的にこれから行うことを宣言した。その場にいるほぼ全員がヒースクリフの発するオーラに、圧倒的なカリスマに当てられ飲まれていた。やはりヒースクリフは人を率いると言う所では圧倒的な才能を見せている。いや、才能だけでは済まされない何かを持っている。それが何か説明できないが、上手いとは思う。一言、たったそれだけで注意すべきと感じさせるその存在感は凄まじい。

「諸君らが知ってのとおり、七十五層のボスが偵察隊を全滅させたのは周知の事実だ。結晶無効化空間の可能性が高く、戦いは今まで以上に苛烈になるだろう」

 そこでヒースクリフがアイテムを取り出す。そのアイテムには見覚えがある。

「そこでボスまでに消耗しないために、あらかじめボス前で位置を記憶させておいた回廊結晶を用意してある」

「おぉ……!」

「おいおい、血盟騎士団本気じゃねぇかよ」

 回廊結晶とは一種のテレポートアイテムだが、特徴として場所を記憶する事ができ、そして記憶した場所であればたとえダンジョンの中であろうとそこへつながる道を作り出す、そんなテレポートアイテムだ。普通の転移結晶も中々の高値がつく中、この回廊結晶はレアアイテムで、一個だけでもかなり高値で取引されている。まだ下層の時代であればクエストか何かで手に入る機会も多かったが、今となってはめったに見る事の出来ないアイテムだ。

 一つ、数千万コルもする高級品だ。

 その使用から血盟騎士団の攻略に対する本気が窺える。

「……」

「オープン」

 ヒースクリフの声と共に迷宮区最奥への道が出現する。

「今回の攻略、血盟騎士団が最前線を維持する。―――共に生きて帰ろう」

 ヒースクリフが背中を向けてゲートをくぐるのと同時に、咆哮の様な声が上がる。これがアインクラッド最強ギルドのギルドマスター、アインクラッドの生ける伝説、ヒースクリフの名声にして手腕。短い言葉で引き込み、ほぼ皆無に等しかった士気を一気に引き上げた。今ならば死を恐れるプレイヤーはほぼいないのだろう。見たところ聞いても変わらないのは……知り合いを抜いて数人ぐらいだ。

 ともあれ、―――立ち上がる。

 それに反応してビク、と再び体を震わす姿が見える。それを無視し、インベントリから≪羅刹≫をオブジェクト化させながらヒースクリフに続きゲートを抜ける。


                           ◆


 ゲートを抜けた先、ボス部屋の前にヒースクリフが剣と盾を持って佇む。もう数秒もすれば次のプレイヤーがやってくるであろう短い時間に、

「君はなぜ私をそこまで嫌う?」

「……」

「答えない、か。まあ、君の活躍には期待している」

「……」

 やはり、この男は気に入らない。あの詐欺師―――水銀とはまた違うベクトルでだ。水銀が徹底的な嫌悪からくるものだとすれば、この男とは立場の違いからくる類の嫌悪感だ。はっきり説明しろと言われれば難しいが、やはり、目だ。あの目、絶対死なないと確信した目がどうも気に入らない。

 疑惑が胸を乱す。

「おぉ、すげぇ!」

 能天気な声に思考が乱される。背後からクラインが出てくるのと同時に別のプレイヤーが姿を現すのが見える。戦いが始まるのだからそれ以外をを考えるべきではないと断じ、刃を”左手で”握りながら、集団の後方に移動する。レイドパーティーの先頭でヒースクリフがゲートが閉じ、全員が到着したのを確認したところで、扉を開ける。

 開いた扉を通って最後に中に入る。

 広い空間だった。他のボス部屋の例に漏れずかなり広く作られて、それなりの豪華さを誇っている部屋だ。

 だが―――そこにボスの姿はない。

「おかしいなあ……」

 ボスの姿が見えない事に違和感を感じ、何人かが奥の方へその姿を探しに行こうとした瞬間―――

「上だ!」

 誰かが叫ぶ。同時に上に向けた視線は落下してくる姿を捉える。パーティーの前に衝撃と共に着地する巨大な姿は髑髏、髑髏の百足だった。頭上には≪The Skullreaper≫髑髏の狩り手。奇襲と、今までにない形で現れた髑髏の百足は、

 一撃で目前にいたプレイヤーを屠った。

 一撃、最前線でライフが万単位のプレイヤーをたった一撃で殺した。今までにないありえない話だ。一瞬で恐怖に飲み込まれそうな集団とは裏腹に、

 体が前に出る。

 そして、

「固まるな! 距離を取れ……!!」

 ヒースクリフの鋭い声が闘志を周りに灯す。即座に展開を開始するタンクプレイヤーの横を抜けるように体を前に出す様に、他にも前に出る姿があった。キリト、アスナ、そしてヒースクリフ。即行の動きで髑髏百足の正面へと回ると、一撃でプレイヤーの命を奪った前足にも見える大鎌を抑えにかかる。

『アキ』

 解ってる。

 ―――本気では戦えない。

 確実に本気で戦っている連中には失礼だろうが、相手の攻撃を弾き、攻撃できるのに行わない。俺の行動で確実に何人かが傷つき、その結果死ぬかもしれないが、

 見極める必要がある。

 そして、もしそれがそうなら―――これが―――俺の―――。

 多くの命を奪い、更に奪わんと襲いかかる髑髏の狩り手との決戦が始まる。武器にも足にもなっている髑髏百足の足の動きの始点を潰しながらも、終始胸を焦がすのは、

 疑惑だけだった。
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| 断頭の剣鬼 | 19:12 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

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| | 2012/08/20 19:31 | |















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