陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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楽園 ―――デスティナイド

「んがぁっ!?」

 大きな音と共に目を覚ます。ベッドから落ちそうになった体を持ち直し、上半身を持ち上げる。指の動きで召喚したホロウィンドウの隅に表示されている時間はまだまだ朝の早い時間を示している。本来ならまたこのまま二度寝に突入する所なのだが、

「あー……」

 拠点にしている高級宿の部屋の窓から外の世界を覗き見る。

「こりゃあ」

 酷い空だ、と言いたくなる。


 実際、空は暗雲で覆われており、先ほどから何度も雷がごろごろいうのが聞こえる。気象情報をチェックし忘れていたが、おそらく、近いうちに雨が降り出すのだろう。ここまで酷い天気になって回復する暴挙はさすがのカーディナルや、SAOのシステムでもない。だから確実にこの後で大振りの雨となるのだろう。午後の活動は迷宮区の中になるから雨の心配は必要ないだろうが、その前に確実に雨に曝される事となるだろう。やはり傘は必要か。

 傘、あまり好きじゃねぇんだよなぁ……。

「なぁーんか嫌な天気だな」

 傘は片手がふさがるし持ち上げ続けているのが面倒だ。だからカッパの方が便利。そうだ、カッパにしよう。それなら少しかっこが悪くても雨はしのげる。

「うし」

 そうと決まったら雨が降り出す前に雑貨屋によってカッパを人数分用意しよう。ベッドから体を完全に起き上がらせ、インベントリを操作する。一瞬だけ服装が下着にだけになると次の瞬間には装備が出現し、完全武装の状態となる。完全に装備が装着された事を確認し、部屋に備え付けられている鏡を覗き込む。

 そこにはいつも通りの赤毛の自分の姿がある。髭はゲーム開始当初のころから一ミリたりとも変化していないが、慣れているしもうこれでいいと思っている。

「うし! それじゃあ始めるかァ!」

 ギルド≪風林火山≫のマスター、クラインの一日が始まった。


                           ◆


「おい、クライン」

「いや、俺が悪かった。うん、ごめんな!」

「謝る気がないだろぉ―――!!!」

 朝早く走って雑貨屋までカッパ買いに行ったのはよかった。雨が降り出す直前でギリギリギルドメンバーに渡せたのもよかった。しかし、

「俺たち全員ピンク色ってどういう事だよ!」

「乱数に怒れ。俺は普通に買ってきただけだぞ!」

「んじゃあ何でお前のカッパだけ見事に赤色なんだよ!」

「そりゃあ」

「そりゃあ?」

「俺が粘ったからだろ」

 欲しい色が出るまで何度も同じアイテムを買い続けるのはゲーマーの常識だ。その結果乱数が奇跡を起こして残りのカッパが全部ピンク色だったとかもはや笑いの神が降臨したとしか思えない。迷わずそのまま突っ走った。

「クーラーイーンー!」

「そのカッパをよこせ!」

「この色を出すために俺は二十着購入したんだぞ!?」

「なんでお前は別の色のカッパを捨てずに取っておかないんだよぉ!」

 団員が一人頭を抱えるが知ったこっちゃない。

「あのなぁ」

 いったん言葉を区切る。

「お前らがいけないんだぜ? この中で気象情報調べてたやつはいるか?」

 ギルドメンバー達が周りを見渡すが、全員視線を逸らし、まともに目を見ようとしていない、まぁ、これは解っていたことだ。自分も早起きした結果間に合っただけだ。

「俺たちは最前線の攻略ギルドだぜ 前準備ってのはちゃんとしておくもんだろ? おめぇら、俺にカッパの用意してもらって本当にそれでいいのかよ? 恥ずかしくないのか? おい、どうなんだよそこらへん」

「んじゃあお前は前々から用意してたのかよ」

「いや、早起きして天気やばそうだから買ってきた」

「そろそろギルマス交代する必要があると俺は思うんだ……」

「奇遇だな。俺もあると思うぞ」

「異論なし」

「異議なーし!」

「クラインよ、天に帰る時が来たようだな……」

「おめぇらマジでノリがいいよな!」

 宿の食堂部分にはまだ早い時間な事もあって誰もいない。聞き耳スキルでもない限り暴れてもここの音が部屋の中に届くことはないので寝ているプレイヤーを起こす心配もない。だからこの程度の馬鹿騒ぎだったら迷惑でもないな、等と思いつつも、

「まあ、お前の仲間だから」

 溜息を吐きながらピンク色のカッパを装備するのを見て、

「んじゃ俺は雑貨屋に新しいカッパ買いに行くわ」

「俺も行くわ。流石にピンクはないわあ」

「もちろん俺も」

「この際お前らで行ってこい」

 ピンク色のカッパを被った集団が宿の扉を開けて外へ出てゆく。その際激しい雷鳴と打ち付けるような雨の音が聞こえるが、今日一日この調子で雨が続くようならかなり憂鬱な話だ。正直雨とか気が滅入るだけなのでやめてほしい。SAOの植物はデータとしての植物だ。雨なんて降らす必要はないだろうに、苦手な液体描写である雨に挑戦するとか、茅場晶彦も中々にチャレンジャー、というより負けず嫌いだったんだな、と思う。

「はぁ」

 近くの椅子に座るとNPCのウェイトレスが近づいてくる。軽く眠気覚まし用のハーブティーを頼む。数秒後に持ってくるのは流石と言うべきか、だが味がそこまでよくないのはやっぱりNPCメイドだからだろう。もっと美味いものを食べたければプレイヤーメイドの料理を食べろという事だろう。料理スキルを上げているメンバーが一人いるから、今日の仕事が終わったらハーブティーを頼むのも悪くないかもしれない。口では色々と愚痴るかもしれないが最終的には作ってくれるだろう。気のいい奴らだ。ここに来るまで一人死んでしまったが、まだ残りは生きている。そして死なす気もない。もちろん自分も死ぬ気はない。全力で戦って、生きて、そして攻略する。それがアインクラッドで死んだ者への最大の供養だって信じている。

 だけど、

「キツイな」

 状況ではない。

 今回の話だ。

 今日は―――七十五層のボス攻略の日だ。事前にレイドパーティーへの参加申請は済ませているし、今日の為に新装備を用意したし、それを体になじませるための訓練もやってきた。チェックしたインベントリには回復結晶ではなく即時回復系のポーションが大量に詰まっている。七十四層のボス部屋は結晶無効化空間だった。その対策に用意した即時回復系のポーションは値が張った……が、命に変える事は出来ない。だけど、それでも不安はある。

 偵察部隊が壊滅した。

 最前線クラスのタンクビルドのパーティーでボスの偵察をやるのは毎度の話だ。目的はもちろん倒す事ではなく、ボスの基本的な動きを把握する事にある。ボスに会ったらそれをデストロイするなんて変態技は極一部のキチガイにしかできない。主にキリトとかサイアスとかヒースクリフ。アレはアインクラッドの三キチ王とでも名乗ればいい。戦闘力が人間のものじゃないだろうアレは。羨ましいとは思う、が欲しいとは思えない。自分みたいな凡人が強すぎる力を持ったらそれこそ破滅か暴走のオチしか見えない。そう、アレはキチガイが持ってるからキチガイ染みたスーパープレイが見れるんだ。つまりあの三人は生まれながらのキチガイ。

「何考えてんだ俺」

 溜息を吐き出しながらハーブティーを口に、思考を正す。

 問題は偵察部隊が壊滅したことだ。話によれば入った直後に扉が閉まり、中の音は一切聞こえず、十数分後、扉が開いたころには何も存在しなかったという事だ。注目すべきなのは全滅した事実ではなく、十数分しか全滅までに時間がかからなかった事だ。生き残ることを優先し、それに特化したタンクビルドのプレイヤーが一度に十人以上やられているのだ。最前線レベルの、プレイヤーがだ。

 正直言ってダメージディーラーで挑んだら一瞬で殺されるのだろう。

「駄目だなぁ……見えねぇ」

 情報がない、タンクプレイヤーが瞬殺されて、そしておそらく―――結晶無効化空間。いや、確実にそうだ。このソードアート・オンラインというゲームは上層へと近づけば近づくほど厄介で悪質なトラップが増えている。下層ではただのモンスターハウスだったトラップも、二十層も上の層に上がれば完全なデストラップとして”即死”させてくるようになる。そのため盗賊ビルドのキャラクターをパーティーに入れる事は生存の必須条件となっている。居なければトラップで死ぬ確率が飛躍的に上昇する。

 もちろん攻略パーティーには偵察時よりも多くのプレイヤーが参加するだろう。侵入できる限界の人数で、トップクラスのプレイヤー達が揃う。そう考えたとしても、

「難しいな」

 取り出すのは一枚の写真だ。キリトとアスナの結婚報告の写真。インベントリに収まっているそれを軽く確認してからしまう。

 今回の攻略にキリトはいない。サイアスもいない。

 今回のボス攻略は血盟騎士団が主導で、ヒースクリフをレイドパーティーのリーダーとしている。アインクラッドの生ける伝説とも言える男の指揮下なら負ける事はないだろう。負ける事はなくても、絶対に誰か死ぬ。何故か天気から始まり嫌な予感が止まらない。こんな時に絶望に希望をもたらしてくれるヒーローがいてくれればいいのだが、結婚したキリトは引退、サイアスはもう攻略には長い間参加していない。自分の知っている限りのキチガイ筆頭二人組が参加しないのは色々と困る、困るのだが、

「いつまでも頼っているわけにはいかねぇよな」

 さらに激しくなる雨が宿の窓に叩きつけられているのを見ながら言葉を零し、ハーブティーを口に運ぶ。予想外に長く思考に没頭していたのか、口に運んだハーブティーは

「げ、温くなってやがる」

 温くなっていた。コルを無駄にしたな、等と考えているとカッパを着た集団が宿に戻ってくる。


                           ◆


 七十五層、コリニアの転移門広場には雨の中だと言うのに既に何人か見覚えのある姿が集まっていた。エギルはキリトを通して知ったし、他のギルドマスターもよく攻略会議で顔を合わせるのですでに既知の仲だ。ギルドマスターが集まっているので、メンバーに適当にするように言って集団に近づく。

「おっす」

「あぁ、お前か」

「集まったりしてどうした?」

 激しい雨の中、若干言葉が聞きづらくなっているが、そこはプレイヤーのレベルによる補正からほとんど問題なくなっている。普段通り聞こえる言葉に耳を傾けながら、他のギルドマスターが口を開く、

「いやな、今回の攻略について考えてたんだよ」

「ほら、情報がないわけだし」

「あー」

 つまり予測と情報交換だ。自分もそれはしてきたし、知っている情報はもうすでに出している。

「クラインお前七十四層の攻略やったんだろ? 他になんかないのか?」

「つってもなぁ……全部既に言ったぞ俺?」

「それでももう一度言うんだよ。チェックしたいんだよ。生存率を上げるために」

 なら仕方がない、とつぶやき七十四層のボス、グリーム・アイズを思い出す。

「七十四層のボスはバフォメットって感じの大型ボスで大剣を持ってたぜ。部屋は結晶無効化空間で脱出は不可能だった。キリトが二刀流発動、ボスは死ぬ」

「役に立たねえ……!」

「おい」

「まあまあ」

 今の話で少しだけ余裕が出てきて、軽い笑いが湧き起こる、その程度の余裕はある。余裕とは大事だ。余裕をなくすと見えているものが見えなくなる、だからある程度は常に余裕を持っておくべきなのだ。だから切羽詰ったこの状況で余裕を持っているのは悪くない。

「まあ、俺は即時回復系のポーション積んできたぞ」

「となるとそうだよな……それ以外にできる事はないよな」

「結晶無効化空間が続くと思うのか?」

「確実にな」

 確実に結晶無効化空間だと断言できる。特にクォーター毎のボスは特別ハードになっている。前のクォーター、五十層の話だが、五十五層のボスと五十層のボスを比べ、どちらが強かったと問われれば確実に五十層と答えられる。それぐらいにクォーター毎のボスは出鱈目で、質が悪い。だから油断はできないし、出来る対策はなんでもするべきだ。ありえないだろう、という考えは致命的なのだ。この場合は確実に対策しておく必要がある。

「まあ、おかげで生産職人が過労死しかけてるんだが……」

「あぁ……相場のインフレは確実に俺たちが原因だな……」

「いや、まあ……」

「うん……」

 フルパーティーの人数分ポーション作るのだ、それもレベルの高い、材料が少々レアな物の。モンスターの乱獲は必須だし買占めは発生するし生産職人のデスマーチは始まるし。かなりの地獄絵図だったと言える。だがその苦労が報われるためにも今日は勝利するべきなのだ。

 もう少し傾向や対策を話そうとしたとき、転移門が光り、その中から人影が出現する。こんな時間、こんな天気だから必然的に攻略に参加するプレイヤーなのだが、

「……おい」

「マジかよ」

 誰かが漏らした声に敏感に反応し、出てきた姿に驚愕する。

「≪断頭のサイアス≫じゃねぇか……」

 ここしばらく全く動向を知る事の出来なかった男が広場に出現した。
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| 断頭の剣鬼 | 11:18 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

キャーサイアスサーン。
全員がピンクの集団とか誰が見ても趣味が悪いとしか思えない……!

そして生産職人頑張れ超頑張れ。

| 蒼桜 | 2012/08/20 11:43 | URL |

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| | 2012/08/20 12:04 | |

ん? と疑問を抱えつつ読めば、やだクラインさんじゃないですか(笑)
前回の流れからコレはまたパーティータイムかと思いきやまさかのバトンパス、コレは次回に期待しろというてんぞー様流のフリなのだろうか( ´艸`)ドキワク

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/08/20 20:15 | URL | ≫ EDIT















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