陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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祝福 ―――マイ・リアリティ

「―――それでは」

 マキナが小さなステージの上で立ち、

「ショートコント―――ザミエル」

 マキナが葉巻を吸うような仕草を取りながら、

「は、ハイドリヒ卿、私はただ……貴方に―――」

「ストップ! スト―――ップ!!」

「アウトォ―――!」

「そりゃあ身内ネタだアホ! キモイんだよ! 声真似やめろ!」

「あはははははははは―――ははははは、は―――ははははははは!」

「ショートコント二番……」

「やめろぉ―――!」


 制止を振り切って二番目の身内ネタを披露するマキナに対してげらげらと笑い声をあげる。その人物を知らなければ本当の意味で笑う事は出来ないが、今のここの雰囲気と、そして知っている人物のリアクションを見ているだけで十分に面白い。だが、一番の理由は確実に、

 この場にいる全員が確実に出来上がっている事にある。

 開けられたボトルの数は四十を余裕で超えていた。

 げらげら笑い声をあげていると、満足げにネタを披露したマキナが席に戻ってジンのボトルをグラスにそそいでる。依然死んだ魚の目であるし、表情に変化は一切ないが、それでも確実に少しずつ酒に飲まれているのが解る。その横に散乱するジンのボトルの群が証拠として存在を主張している。

 ベイもトバルカインもマキナも本来は酔う事の出来る体ではないが、あえてその機能だけをカットして飲んでいる。人間誰しも酔いたくなる時が来る。今、その必要性があるかどうかはわからない。だが今、この場で、確実によってないのはマスターのエックスぐらいだった。

「螢……螢は元気にしてるかなぁ……」

「妹の事を信じられずして何が兄だ……!」

「ベイ!」

「トバルカイン!」

 ここにシスコン同盟が結成された。ベアトリスがいれば確実にベアトリスも参加しているだろう。現実世界にいるシスコンズの妹にはご愁傷様としか言えない。こいつらはバカでアホだ。放置してもしなくても恥ずかしい話をどんどん暴露してくれそうだ。いやぁ、楽しみだ。

 ただこれだけは言わなくてはならない。

「キメぇ」

 それにマキナが続く。

「男の友情ほど見てて暑苦しいものはないな」

「お前がそれ言うのかよ!」

 マキナが言った言葉は絶対にこいつだけは言ってはいけない気がする。何か色々と台無しにされた気分である。と言うか今夜はマキナ一人に何度腹筋をデウス・エクス・マキナされたことだろうか。段々と腹が笑いで痛くなってくる。

 あー、面白い。悪くない、実に悪くない。

 椅子から立ち上がり、バーの外を目指す。

「ん?」

 トバルカインが此方に気づくので、手を振る。

「少し夜風に当たってくる」

「おう、早く戻ってこねぇと俺たちで店の酒全部飲むぞ」

「おう、マテやワレ、ウチの店潰す気か!?」

「まあまあ―――たまには馬鹿になることも大事かな」

 ストッパーが完全に消えてこれからの展開が楽しみになりつつも、バーの外へでる。


                           ◆


 暗い。

 アルゲードの路地裏には街灯やランプといったものは一切なく、暗闇を照らすのは月の光と星の輝きだけだ。エックスのバーの前には店の入り口を照らすためのランプが一つだけある。だからアルゲードの路地裏でも、夜になったとしてもある程度の視界は確保できる。と言っても、視界が確保できるのは光が届く範囲だけであって、それ以上は他の区画同様、完全な闇に囚われている。ここで≪夜目≫スキルでもあればまだ遠くまで見えるのだろうが、生憎とそんなものは習得してないので三メートル先が見える程度にしか闇の中では視界が確保できない。

 十月が過ぎて、季節は秋から冬へと移り変わろうとしている十一月。夜風がだいぶ肌に寒気を刷り込むようになってきた。布地の薄いこの赤い衣では十分な暖を取ることができないが、それでもエイヴィヒカイト―――水銀の法則が体を寒気や熱気から守ってくれる。酔いも抜こうと思えば一瞬で抜けてしまう。なんて便利な体なのだろう、と純粋に喜ぶ人間はおそらくいないだろう。黒円卓の人間も別に自分が特別であることに対して何か誇りがあるわけでもなさそうに見える。

 息を短く吐き出す。息は白くなって出てくる。

「もうそろそろ冬か」

『また、寒くなってきたね。雪、見れるかな?』

 雪が見えるまでに寒くなるのはもう少し先の話だろう。最低でも十二月に入ってからではないとシステムが雪を降らせないはずだ。しかし確か五十五層が常時氷雪地帯だったはずだ。雪を見るためであれば―――。

「来てるんだろ?」

 気配を感じ取り、アルゲードの路地裏に声を向ける。そこに人の姿は見えないが、プレイヤーのカーソルは見える。緑色のカーソル、つまりは一般プレイヤーだ。

「アルゴ」

 名前を呼ばれて出てくるのはローブで全身を隠す情報屋の姿だった。その雰囲気は少々ご立腹な様子だった。

「楽しそうに飲んでるナ」

「盗み聞きはあんまりいい趣味とは言えないなぁ」

「そりゃあ呼ばれたのに待たされればそうもなるヨ。キミも人を待たせないのがいいと思うヨ」

 情報屋アルゴ。売れるものであれば自身のステータスまで売るような存在だが、情報の精度と速さではかなり信用が置ける存在だ。ただ何の情報を購入したというところまでを商売にしている存在だ。口止め料に幾らか払っておかないとこのやり取りさえバラされる可能性がある。インベントリを開き、そこから十万コルほどお金を実体化させ、それを袋に入った状態でアルゴに投げ渡す。受け取ったアルゴはそれを即座にインベントリにしまう。

「まいどあり。いやぁ、サイアスさんとはいい商売をさせてもらってるヨ。今後ともよろしく頼むよ」

「ハッ」

 これをいい商売なんて言うあたり、相当な”鼠”だこいつは。口止め料を払わなければ口を”滑らせる”可能性すらもっていて、そこから更なる商売につなげようとする。こいつと一度関われば定期的に口止め料やら情報のやり取りでもしないと、どこで何をされるか分かったものではないが、それでもちゃんと付き合い方をわきまえれば有用な存在だ。所属に限らず信用できて利用のできる存在と言うのは中々に稀有だ。

「最近の景気はどうだ?」

 その言葉にアルゴが少し驚いた様子を見せる。

「……んだよ」

「いやいや、少し驚いただけだヨ。サイアスさんも時間が経てば変わるもんだネ」

「おい」

「解ってる解ってるヨ。そう簡単に言いふらしたりはしないサ。上客をこっちから逃がしたりするのは愚の骨頂だからネ。長く付き合える客は大事にしたいヨ」

 どうだか、と言いたくはなるが前線で活躍できるプレイヤーは確実に減ってきている。アルゴの基本的な商売相手が最前線で活躍する攻略プレイヤーだと考えると、やはり商売できる相手は減ってきているという事か。まあ、正直興味のない話だが。

「ラフコフの時から変わったらしいけど、いったい何があったんだイ? 聞ける人間がいなくて困ってるんだヨ。そこらへん、教えてくれないのかネ?」

「コネ持ってんだろ? 探せよ」

「むぅ、冷たいネ」

 これでいい。浮かれていた気持ちが冷まされて行くのが解る。楽しい時間が終わりを告げて、これからはまた、別の楽しみが始まるのが理解できる。内側でマルグリットが少し悲しむのが解る。が、しかし、それでもやめるわけにはいかない。

 アルゴの方向へと向き、インベントリから約束していた報酬を投げ渡す。

「うむ、しっかりとあるネ。じゃ、渡すよ―――持っている限りのラフコフと犯罪者の情報」

 持っているコルをほとんどすべてアルゴに渡して、その代わりに手に入れたのは現在アインクラッドに存在する犯罪者プレイヤーの名簿、そしてラフコフに関与し、まだ生き残っているプレイヤーの名簿だ。結構な口止め料が払われており、この情報を購入するにはかなりの金額が必要だったがフリーマーケットでいらなくなったものを売ったりフィールドボスドロップを売却し、その分の金額は十分に貯まった。

 ―――キリトとアスナが結婚したのにはある理由がある。二人の仲を一気に進展させるある事件が存在するのだ。それはキリトがヒースクリフに敗北し、血盟騎士団に入団したことから始まる。入団してすぐ認められるわけでもなく、キリトはクラディールという団員と共に上官と下層のダンジョンの攻略を始めた。既に攻略されたダンジョン、レベル的にも全く問題はない。アスナを巡ってクラディールとは一回戦っており、二人の仲を修復するために上官が考えた事だった。二人からすれば全く余計な事をしてくれると思えただろう。

 実際、かなり余計だった。

 この”クラディール”には問題があった。この男は元犯罪者プレイヤーで、PK系のシステム外スキルを先輩とも言える人物から教わっており、

 上官は死に、

 キリトも瀕死の致命傷を受けた。

 そして―――クラディールはアスナに殺された。

 この一件でキリトとアスナはもっと自分の命を大事にすることを、共にいる時間を大事にすることを覚えた。最前線から離脱し、二人で密かな結婚式を挙げて、そして極少数の、親しい友人に結婚の報告をして……田舎のフロアに隠れ住んだ。キリトとアスナは完全に最前線から離れて二人だけの、蜜月を味わっている。二人の楽しそうな様子が写真に付随された手紙から伝わってきた。本当に幸せそうで、羨ましくて、眩しくて―――あぁ、だからこそ許せない。

 吐き気がする。

 この幸福を壊そうとする存在がいて、この幸福をあざ笑う存在がいる。許せない。認めない。消してなるものか。アイツは俺だ。違う道を選んだ俺だ。だから幸せを壊すクソどもは認めないし、キリトの幸せを望む。あの幸福が続くことを。俺にはできなかった、また誰かに惚れるって事を、アイツは恐れずにできた。それを誰よりも認めているつもりだし祝福したい。

 だから、

「感謝するよアルゴ」

 そう、純粋にアルゴには感謝しなくてはならない。アルゴの協力がなければ今回この名簿が手に入ることはなかった。

 感謝の言葉に対してアルゴは驚く表情を見せないが、

「いや、サイアスさん変わったと思ったけど―――変わらないネ」

 そう言われて顔に軽く触れる。手の感触を通して感じる物は……笑みだ。そう、笑っている。狂喜している。敵を見つけられたことに対して、喜びを露わにしている。これからの展開に胸を踊らせている。どうしようもなく欠陥的で、そして終わっている。これは、確実に社会復帰は無理だろう。そんなくだらない事は思うも、

「そうだな、そう簡単に人は変われるものじゃないのかもしれないな」

『アキ、それは違うよ。アキだって変わってきてるよ? 私がそれを知っているよ』

 マルグリット。お前は優しすぎるんだ。だからな、人は変わることができても―――その本質は一切変わらないって事を知らない、……いいや、信じられないんだ。お前の世界は優しく、誰もが変わっていけると信じているから。俺さえも変われると。

『アキは自分を信じてないけど……私は、私はアキの可能性を信じてるよ』

 俺ほど信用のできない存在はない。自分の起源が知りたい。自分の本質が知りたい。本当の自分とは何なのかを、知りたい。あの詐欺師に出会った瞬間今の自分が偽りであると感じられた。そして位階を上るうちに―――今の自分は違う、何かが欠けていると強く感じられるようになった。

 結局、俺は何も変わっていない、

 それでも―――俺にできる事が存在する。

「結局さ、俺はずっと変わらなかったんだよ。最初から最後までずっと処刑人。不要なものを斬って斬って削ぎ落として撥ねる。その程度の人間でそれにしか特化してない人間だ」

 だからそれ以外には何もできる気がしない。が、アルゴは特に興味を持った様子もなく、

「ま、サイアスさんが昔のままならこっちとしてはいい商売ができそうで何よりだヨ」

 ま、そうだろう。結局のところアルゴの興味は俺の人生観にあるわけではなく、コルにある。そこまで必死に稼いでどうするのかというのは若干興味がなくもない。が、それを聞く暇もなく、アルゴは背中を向ける。

「じゃあ、何か解ったらまた売りに来るヨ」

 そう言ってアルゴはアルゲードの闇に消える。その姿をぼぉっと眺めた後に空を見上げる。

 綺麗に輝く星々が見える。

「―――花の命は短い」

『え?』

「諸行無常……形あるものは必ず壊れるって意味だよ」

 詳しいわけではないから間違えているかもしれない。が、この世の本質は、全てが常に流動変化であり一瞬でも同じ姿を保持することができないらしい。だから、だからこそこの美しい刹那を全力で楽しみたいんだ。花の命は短い―――だからこそ美しいんだと思う。

 だから、

「一切合財消えろ。滅尽滅相、ってな」

『アキ……』

 誰一人として生かしておくものか。貴様ら全員皆殺しだ。”俺”の輝きを阻むものは全員消え失せろ。貴様らの首を、

「撥ね飛ばしてやる」

 暖かく、楽しかったはずの夜に残ったのは冷たい、鋼鉄の様な声の響きと覚悟だけだった。
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| 断頭の剣鬼 | 11:36 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

マキナ自重(笑)
、少佐がいたら間違いなくカオスだ(苦笑)
ふと思ったんだけど、黄金閣下が意識不明って事は、魔砲●女な少佐は大丈夫なんだろうか? 一人で日本に突貫しないかという意味で(笑)
現実戻ったらシスコン兄貴の気苦労がたえないように思えてならない(爆)

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/08/19 12:29 | URL | ≫ EDIT

こっちは冊子版と違ってアスナが殺した事になってるんですね
ところでSAOの世界って酔えるんでしたっけ?ALOはクライン曰く味は良いが酔えないとかいってたような

| zp | 2012/08/19 14:24 | URL | ≫ EDIT















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