陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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祝福 ―――プロージット

 ―――キリトの敗北。

 それはそれほどまでの衝撃としては広まらなかった。

 やっぱり。なんとなく。順当。

 そんな評価で、最初からヒースクリフの勝利は予想されていた。圧倒的知名度のあるヒースクリフとソロのキリトでは、どうあっても人気の差というものがある。今回はそれが働いただけだった。キリトは敗北して血盟騎士団に入団し、ヒースクリフが新たな手駒を得る。そういう結果で終わった。

 が、長く続かない。

 数日後、キリトとアスナは血盟騎士団を退団し―――


                           ◆


 目の前、手の中には一枚の紙切れが握られている。少し色素が薄いが、それは間違いなく写真だ。SAOにアイテムとして登録され、とあるスキルを通して作成する事の出来るアイテム、写真。その写真に写されているのは腕を組む男女の姿だ。男が黒いタキシード、そして女の方がウェディングドレスに身を包んでいる。写真の中に写っている男女ははにかみながら、此方に恥ずかしそうな視線を送ってきている。

 キリトとアスナだ。

 写真の隅には”結婚しました”と書かれており、キリトとアスナが結婚したことを記してある。血盟騎士団を僅か数日で退団したキリトとアスナは二人で前線から離れ、そして田舎のフロアへと移ったという。写真に写る二人は確かに幸せそうで、写真からでもその雰囲気が伝わってくる。いろいろな凶事を乗り越えて、やっとキリトは幸せを手にしたのだ。

「はははははははは―――ははははは!」

 手に持ってるボトルをカウンターに叩きつける。

「めでたい! めでたいぞぉ!」

「おい、こいつこんなに酒癖悪かったのかよ……」

「お酒飲んでるところ見た事がないからね」

「……」

 場所は五十層。しかしそこは普段いる拠点ではなく、とある場所にあるバーだ。昔の知り合い、まだ剣鬼ではなかった頃の知り合いの店。理解のある知り合いが経営していて心置きなく飲める場所と言えばそこしか知らず、めでたいから黒円卓の男どもをひっぱてきた。そこにはシュピーネとラインハルトがいないが、あの二人は飲むってキャラでもないのでこの際諦める。

 バーは地下の空間に存在する。広い店内にいる客は俺、ベイ、トバルカイン、そしてマキナだけだ。この三人で飲むためだけに店内は貸し切られていて、カウンターの向こうのマスター―――エックスワイジーがレコードプレイヤーでジャズを流しながらカクテルや酒の用意をしてくれている。こうやって店を丸ごとひとつ貸切にできるのは中々豪勢だと思う。

 だが、それはともかくとし、

「飲む!」

『アキ、それで何本目なの?』

「五本目ぇ!」

 アインクラッドで基本的にお酒と言えばメジャーなのは果実酒かワインとなっている。寝るためのホットワインとかもそれなりにメジャーではあるが、今開けているのは度の強い果実酒である。からとなったボトルが座っているバーカウンターの前にずらっと列をなして並んでいる。中々壮観な光景だと判断できる。

「いや、昔は飲んでもこない酔いはせんかったんやけど……」

 マスターのエックスワイジー、通称エックスが困った様子を浮かべながら此方の姿を見てくる。その視線を大部分は呆れと理解だ。その視線は手元の写真に注がれていて、

「まあ、仕方がないやろなぁ」

 苦笑が示すのはやはり理解だ。ここにいる人間は共通として”サイアス”の過去を知っている。そこに同情や憐みを示すのは勝手だし、リアクションも個々に任せている。ただ共通として好きだった女を失い、修羅道に落ちたという事を知っている。。有名な話ではないが、知り合いであれば誰もが知っている話だ。アインクラッド全体から通してみれば珍しい話でもない。

 六本目のボトルをラッパ飲みで半分も飲む。

「っぷ、はぁ!」

 下品だと思うが、今日ばかりは許してほしい。

「おいてめぇ、そんな飲んでると潰れるぞ」

 ベイの言葉が聞こえる。トバルカインもそれに続き、

「システムが認識させてくれる酔いで実体には影響なんだろうけどさ、それでも飲みすぎは体によくないよ」

 マキナは何も言わずに黙ってジンをロックで飲んでいる。

 ボトルをカウンターに叩きつける。

「いいんだよ! 今日ぐらいは! めでたい日なんだよ! は、はははは―――はははははは!」

「駄目だこいつ」

「完全に壊れてるね……」

「……」

「解ってないなぁ、解ってないなぁ……あの朴念仁だぞ? 朴念仁キリトがだぞ? 一生結婚できなさそうなやつがだぞ? おい、もう一回言うな。朴念仁だぞ、朴念仁キリト! アイツが! 結婚! そう、結婚! 結婚したんだぜ!? 俺、アイツフラグ立てるだけ立ててリアルに幼馴染いるから婚期入ったら焦りだして食われてそのままゴールインってタイプだと思ってたわぁ……」

「おい、こいつめんどくさいぞ」

 わかってらい。

 だけど今日だけはこの喜びを噛みしめる面倒な男でいさせてほしい。酒も麻薬も通じる様に意識しなければ感じる事が出来ない体だけど、それでもこの事はうれしいんだ。まるでここ数年分の幸福を一気に感じている気分だ。あぁ、正直に言おう。

「羨ましいなぁ……」

「……」

 羨ましい。ああやって幸せな生活を、戦いとは無縁の生活を始められるキリトが羨ましい。惚れた女と一緒になれるキリトが羨ましい。剣を捨てる事が出来たキリトが羨ましい。今の俺は感情豊かで、少しは余裕があるように見えても―――結局、何も変わってはいない。敵は切るし強くなろうとし、剣は一度も放していない。俺が変わらないのにどんどん前へ進むキリトは羨ましい。人間のままなのに。人間のままで……いや、俺みたいにあきらめなかったんだろう。逃げなかったんだ。

「あー……羨ましい……」

「サイアス君……」

 あ、そうだ。

「おい、トバルカイン」

「うん?」

「お前の結婚は何時なんだよ」

「うっ」

 聞かれた瞬間トバルカインが言葉に詰まる。ベアトリスと恋仲なのは見れば誰にだって解る事だし、付き合いだしてそれなりに長いこともわかる。これで結婚してないのだからおかしい。

「くくくくくっくっく……」

 ベイが軽く笑っているのが見える。

「ベイ」

「いやいやいや、聞けよこいつの話をよ」

 トバルカインが困った様子で頬を掻き、

「いや、僕もベアトリスと付き合いだして結構長いしね? 結婚しようと踏み出したことは何度もあるんだ」

 と言うと、何やら成功しなかったように聞こえるが。

「うん。何故か、何故か毎回邪魔が入るんだ。一回目のプロポーズはザミエル卿がベアトリスをベルリンへ急に連れてっちゃって失敗して、二回目は副首領の命令で僕だけ先に日本に戻されて、三回目はベアトリスが日本に来たときにプロポーズしようと思ったらザミエル卿に書類の山を渡されてプロポーズどころじゃなくなって……」

「おい、それ妨害されてるぞ」

「あの犬、彼氏より飼い主の方に調教されてるからなァ」

 首輪を装着して犬耳尻尾装備、それを激しく振りながら”お座り”をしているベアトリスを想像する。その姿は、なんというか、

「犬だな」

「あァ、犬だ」

「犬だな」

「マキナ卿まで何を言うんですか……ってこれ、ガチで妨害なのかな?」

「そのザミエルって人物はどんな人間なんや?」

 エックスの声にトバルカインもベイも黙り、少しだけ俯いた。そんな二人を見まわしていると、代わりにマキナが口を開く。

「軍人だ」

「いや、それは」

 それは知っていると言おうと思って、

「いや、それで正しいんだよ」

 トバルカインが苦笑する。

「軍人、って言葉が人になった様な女だぜありゃあ。自分が女である以上に自分を”軍人”だと思ってやがる。騎士の誇りだとか、軍人の責務だとか、いろいろと面倒だぜ、あの女はよォ」

 ベイはそのザミエルという人物が苦手らしい。見た目がチンピラな人間と規律を重視する軍人ではどう足掻いても相性が悪いのか。

「ただな」

 ベイが笑みを浮かべる。

「ザミエルはああ見えてハイドリヒ卿にゾッコンだぞ」

「マジか!」

「あぁ、マジだ。ハイドリヒ卿がシングルファーザーだってのに諦めずに慕っているぞ。でも恋愛処女だからアタックの仕方も知らずに、ハイドリヒ卿の前で忠誠だとか言いつつ顔を赤くしやがって……アレ、超笑えたぜ。ああ言う初々しいリアクションは慣れたり開き直ると見れねぇもんだからよ、見ててスカっとするぜ」

「ベイも中々口が悪辣だよね……」

 六本目のボトルを飲み干し、次のボトルを頼む。

「おのれはわいの店を飲みつぶす気か」

 そう言いつつも用意してくれる辺り、しっかりと払いをしないとダメなんだろう。しかしザミエルという人物は聞くに中々面白い人物の様だ。機会があれば一度会って話してみるのも悪くないかもしれない。

「でもデレとかそんな事だったらベイも人の事が言えないよね」

「あァ?」

 トバルカインも相当飲んでいる。そろそろ口が軽くなってきたのか、

「だってほら、妹にはすっごいデレデレじゃないか、ベイは」

「おいテメェ」

「ほら、前に妹さんに逢いに行ったときベイ耳掃除してもらったり一緒に料理したりとすっごいデレデレじゃなかった?」

「おい、何だその未知。ちょっとこっちに寄越せ」

「未知ではない。既知だ。見たければベイの家へ行け」

 あ、マキナも見た光景なのか。なら、

「恥ずかしくないのぉー?」

「お前の顔面握りつぶすぞコラ」

 マジでやりかねないほどに青筋が浮かんでいるのでベイを話題の中心にするのはやめる。今後ベイを弄るネタとして妹ネタは最高なのかもしれない。適度な自制心を持っている分、ギリギリを踏み違えないで済むし。ネタを提供してくれたトバルカインには感謝しよう。

 しかし、そうなると、

「マキナには面白い話はねぇの?」

 バーにいる全員の目がマキナへと集まり、

「芸人が面白くなかったらそれはそれで致命的だろ」

「いや、それはそうなんだが……」

 もっと致命的におかしいところがあるだろう。

「なんでこいつが芸人なの? 明らかに戦士ビルドだろうが」

 おもに体格とか性格とかが。だがトバルカインは首を捻り、

「ん? おかしい?」

 どうやらドイツ勢にとってマキナが芸人であることは疑わないレベルでの常識らしい。ここまでのレベルとなると一度でいいからテレビに出演している所を見たくなる。が、見たら見たでなんだか引き返せなくなりそうな気がする。

 マキナの事に関してはそっとしておこう。

 しかし、

「はぁ……」

 写真をもう一度見る。

『そんなに羨ましいの?』

 それはもう。

 羨ましくて、嫉妬しそうだが、

 それ以上にキリトが幸せを掴んでくれたことが嬉しい。純粋にキリトの幸せを祝福したい。俺では絶対にああいう風になれない。ああはもうなれない。俺には結婚なんて眩しすぎるから。だから日陰の中で少しだけ、その幸せを眺めているぐらいが十分だ。呪われていたとしてもそれぐらいは許されるだろう。

「Prosit!」(乾杯)

 ボトルを高く掲げて一気に中身を呷る。

『ねぇ、アキ?』

 なんだ、と言葉を使わずに答える。

『もし、私が―――ううん、何でもない。ごめんね、邪魔しちゃって』

 その先はなんだったのだろうか。気になる気もするが、

 ……知っちゃいけない気がする。

 その先を知ってしまえば今の自分が自分でいられなくなるような、そんな気がする。この白痴の少女が言おうとしたこと、それを忘れる様にボトルの中身を飲みこんで、

 今は酔いに身を任せる。
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| 断頭の剣鬼 | 12:01 | comments:7 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

サイアスがこんなにはっちゃけるとはw
こういう話もいいですねー

| tk | 2012/08/18 12:20 | URL |

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

| | 2012/08/18 14:32 | |

酒乱のサイアスさん珍しい!

そして、誤字脱字が…
レみたいにあきらめ→オレみたいにあきらめ

このザミエル人物→このザミエルという人物

ボトツ→ボトル

かと

| タッツミー | 2012/08/18 15:23 | URL |

お久しぶりです。

はっちゃけるサイアスは久しぶりですね。

<妖怪・首置いてけ>もいいですが、こういうサイアスもいいですね。

願わくばサイアスにも再び幸せな日常が来ることを。

にしてもザミエルェェ……。

| 断章の接合者 | 2012/08/18 15:41 | URL |

魔砲●女な少佐が姑してる件(笑)
あの人、実はニートと結託してるんではないだろうかw
いや、性格的に水とガソリンだけど( ´艸`)
どちらにせよ屑兄さんの苦労は変わらないという話。

そしてワン子なベア子――スッゴく一撃必殺技です(笑)

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/08/18 17:01 | URL | ≫ EDIT

ザミエルぅ……。

キリトさんの首置いてけが見れるとは思わなかったので少しテンションが上がりましたね。
てゆーかアスアスに同意、うらやますいわぁ。

でれベイも見たい……ここの黒円卓は相変わらずだなぁ…。

カイン頑張って、超頑張って!

| ろくぞー | 2012/08/18 17:26 | URL |

お願い

こちらの小説を読んてDies iraeをしています。
そしててんぞーさまにお願いがあるのですが、どこかのラジオ(予算500円)のようなものを作って欲しいです。

| 御神楽 湊 | 2012/08/19 00:59 | URL | ≫ EDIT















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