陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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第六話 告白



 温かい気配を感じ、それを抱き寄せると同時にもっと感じようと顔を押し付ける。もっともっとと、優しいぬくもりを感じようと目を閉じたまま回した手に少しだけ力を入れる。

「ん……」

 圧を感じると同時に近くから女性の声が聞こえる。鈴の音のような、美しく頭に残る声。もっと聞きたいと思う声。もうすこし、あと少しだけ聞きたい、そう思って―――

「―――えっ」

 目を覚ます。

 現状把握。ベッドの中。サティアに抱きついている。胸に顔をうずめる。サティアこっちを笑顔で見てる。放心なう。

「おはよう、玖楼」

 笑顔で挨拶するサティアとは別に玖楼のテンパリは最高潮に達していた。

 何故だホワイWHY! どうしてこうなった。自分は確か床で眠ったはずと言うかずっと起きてたはず! 眠らないで我慢してたのに何故気がついたら抱きついてたなんて状況なんだっつーかなんてエロゲ。エロゲつったらもう半年以上もやってないな。AL○CEソフトの新作出るって話だったけど遊びたかったなぁって、そんなこと考えている状況じゃないサティアさんかわいいよサティアさん。イヤッフーゥ!

 とりあえず、

「お」

「お?」

「お、お、お、お……」

「お?」

「オァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

ヘタレの結論:少尉の如く暴走する。

 ベッドから体を横に回転しながら飛んで脱出すると真っ直ぐに窓へと向かい窓を思いっきり上げ、

「アイキャンフラァァァァイッ!!!」

「玖楼?!」

 テンションに任せたまま体を窓から投げる。頭から地面に激突する瞬間、玖楼の頭によぎったことは一つ。

……いい匂いしてたなぁ……。


                   ●


 玖楼の奇行から1時間、玖楼は完全に復帰して宿屋の1階、酒場部分にいた。まだ時間が早いのか、酒場は咲夜のような賑わいを見せず広々としており、ポツポツと朝食をとる人間の姿が見て取れた。

 その例に漏れず、玖楼とサティアも並ぶように木の椅子に座っていた。同じく木で出来たテーブルの上にはできたての料理が並んでおり、冥き途では見たこともないような料理が並んでいた。理解できたのはベーコンのような肉とパンと目玉焼きまで、透き通った色のスープや見たことのない野菜の入ったサラダも出ており、大いに食欲を刺激していた。

 だがその前に、

「いい加減笑うのを止めてくれよ……」

「ごめんね……ふふふ、だって……ふふふ……アレぐらい気にしないのに、いきなり窓から飛び降りるんだもの。ふふふ」

「もう許して下さい」

「許しはしてるわよ?ただ面白いだけよ。ふふふ」

「じゃあ勘弁してくれよ……」

「ごめんごめん……ふふふ」

「止まらないじゃないか」

 慣れたのか玖楼の動きには硬さがなく、自然と笑えている。サティアも未だに面白いのか、玖楼の飛び出す姿を思い出しては上品に笑う。それをなんとか聞き流しながら、木のスプーンでスープを一口口へと運び飲む。

 そしてスープを口に銜えたままで固まる。

 その様子が心配だったのか、サティアが玖楼の顔を覗き込む。

「大丈夫?私は美味しいと思うんだけど……」

 朝食のオススメはサティアが手配したもののため、それが玖楼の口に合わなかったのかと心配したのだ。

 そしてスプーンを口に銜えたまま涙を流しながらスープを飲み続ける。

「く、玖楼?!」

 流石にこの豹変には驚かざるを得なかった。だが玖楼本人は涙を流しながらも、しきりにうまいうまい言いながら食べ続ける。

「だ、大丈夫?」

「うめぇよぅ……スープとかまともに調理された物を食うのなんて超久しぶりだよ……」

 玖楼が今までいた場所を考えればそれも当たり前だ。食べ物は基本的に魚か肉、それも焼いて塩か胡椒をかけるだけのシンプルな男の料理。旅を始めても食べているのは用意した干し肉。最後にスープなどのまともな料理を食べたのは日本にいた頃。

 玖楼、約半年振りの文明的な食事である。彼は今、心から料理に感謝し、まともな料理に感動していた。

「食べ物は逃げないのだから、もっとゆっくり食べなさいよ」

「はむはむはむはむ」

 男女が二人で食事を取っているというのに、その食事風景には色気が一切存在しなかった。


                   ●


「んっー!っく、ふぁー」

 宿からサティアと並んで、体を大きく伸ばしながら出てくる。昨夜は夜の闇で暗い時間に到着したためにまったく周りが見えなかったが、日の光が当たる今では違う。全体的に小さな村だが、中央を整備されただけの平らな土の道路があり、そこから枝分かれするように村の各所へと続いている。宿が存在するのは比較的入り口近くで、奥のほうの少し高い位置に教会が立っているのが見える。宿も横を覗けば馬小屋などがあるのが見え、昨日乗ったウィルの馬車共々置かれているのが見える。

 簡潔的に言えば、のどかで平和な何もない村、と言うのが一番当てはまる表現である。

 ウィルに言わせれば此処で手に入る羊毛はかなりの高級品だと言うことで、なるほど、こんな自然いっぱいのところで暮らせばいい羊も育つな、と納得する。

 そんなキョロキョロ見渡す玖楼の前にサティアが進み出てくる。

「そんなに珍しい?」

「うん。見るもの全てが新しいよ」

 冥き途から出てきてよかったと思う。もしあのまま冥き途にこもっていれば決してこういう景色は見れず、終始ゾンビと人外がお友達なんて明らかにおかしな人生を送ることだった。

 うん。それはない。絶対ない。どう考えてもナベリウスルートかリタルート直行。確実にロリコンの烙印は押される。そんな考えを即行で投げ捨てる。今は目の前にいる美女の存在を魂に刻もうと。

 そんな玖楼の内心を知らずサティアは笑顔を浮かべ、玖楼も答えるように笑顔を浮かべる。

「それで、どうする?」

「出来たら此処らへんを見て回りたい」

 元々、そのためにあの穴倉を出たのだ、と。とりあえずまず行くべき場所は分かっている。

「私はここに何ヶ月も滞在しているし、案内が必要なら案内するわよ?」

「え、マジ?!」

「……まじ?」

「え、あ、んーと、『本当に』? ってのを俗っぽくした感じの言葉だよ。……サティアには言ったよね? 自分が何処から来たか。そこでは割と良く使われている言葉なんだけど、この世界には存在しない言葉なのかなぁ」

 余談だが玖楼の過去を覗いた冥き途組はそれなりにヲタ知識が増えてたりする。

「うん。まぁ、ありがたくお願いするけど……そのまぁ、前に行きたい場所があるんだ」

「行きたい場所?」

「とりあえず、教会へ行きたいんだ」

「……? 玖楼って信仰する神を持ってたっけ」

「いや、神様の存在は信じるけど、生憎信仰するほど信心深くはないよ。と言っても、祈りさえすれば奇跡を起こしたり、魔力を使えるようになるのは非常に魅力的だけどね。魔力のない人間としては」

 この世界に存在する神殿協会は基本的に神殿教会の主神であるマーズテリアを信奉し、そしてその言葉を伝えたり巫女の役目をする『預言者』の存在を最上に構えてはいるが、『現神』を信仰する信者であればどの神を信じようと仕えていようと教会で祈ることを許されているのだ。それゆえ、この世界の大半の人間は教会を頻繁利用していることがわかる。冒険者達もその例には漏れ冒険者達の神である、バリハルトを信仰するものが多い。

 だが玖楼は信仰する神がいない。『現代』から来た彼は神を信じられても、信仰する気に離れない。そこまでは、信心深くはない。

「じゃあ、何で教会に? 治療の水とか?」

その言葉にいや、と頭を横に振りながら足を教会へ向ける。

「教会にダチがいるんだ」

「だち?」

「そ、ダチ」

 そうつげた後、足を動かし宿からそう遠くない教会へと向かい始める。場所だけならば昨夜ウィルが説明していたことを聞いているからなんとかなるはず。そもそも小さな村であるため、探すまでもなく見えてくるはず。

 歩き出した玖楼に追いつくようにサティアが小走りで玖楼に追いつくとその横を共に歩き始める。宿から歩いて数秒、教会が視界に入るのにはそう時間は必要なかった。その建物の大きさは宿に続く大きさであり、そうそう逃せるものではなかった。

 北華鏡の集落にある教会は、さほど大きいものではなかった。田舎の協会と言われればイメージしやすそうな、そんな概観の教会である。建築からそれほど年月がたっていないのか、所々汚れた場所が見えるがそこまでは酷くなく、全体的に白い清潔感を思わせる姿だった。教会の前まで行くと臆せずそのまま扉を開けて中へと入る。

 教会の中は外よりも綺麗になっており、毎日掃除されていることが伺える。ぽつぽつと、習慣なのか村人が熱心に祈っている姿もあれば冒険者の服装の人たちが祈る姿もある。奥に桃色の髪色をしたシスター服の女性が居り、中に入ってくる姿を見かけてるとゆったりとした歩みで近づいてくる。

「神の家へようこそ。本日はどのような用事でしょうか?」

「昨夜ここへ来たフェヴナンドって騎士にちょっと挨拶したくて来たんだけど、今いるかな?」

「騎士様でしたら既に村長様の所へ着任の報告へ行ってしまわれました」

「あちゃー……まぁ、逢えないのなら仕方がないや」

 昨夜言われたように、同じ小さな村にいるのだからまた逢える可能性は高いのだ。その時になったらまた逢えばいい。急を要すことがあるわけでもないのだ。

 そんなことを考えていると、ふと今まで横にいたサティアの姿が消えていることに気づく。

「サティア?」

 そういいながら辺りを見回すと、教会の外、入り口で手を振るサティアの姿があった。それに安堵しつつ、シスターにそれではと、挨拶をしてから教会の外へと小走りで出てゆく。

「待たせた?」

「ううん。そんなに待ってないよ」

 頭を横へと振りながら笑顔で玖楼を迎えると、出てきた玖楼の腕を引いて村の裏側へとその体を引っ張ってゆく。その急な行動に体が倒れそうになるが、体を即座に引っ張り上げてなんとか持ち直しながら前へと進む。

「どこへつれてってくれるんだ?」

 そう問いかける玖楼に、

「内緒!」

 笑顔でサティアはそう答えた。


                   ●


 北華鏡の集落は大きさ自体はそれほどではない。だがあくまでもそれは『生活圏』だけであり、牧場などの土地を入れればそれなりの大きさを有する。だが牧場や農場はあくまでもそれであり、村からは少しはなれた村の裏側に存在している。サティアに連れられ玖楼がやってきたのはそこであった。

 目の前には川が流れ、それに沿うように道が通っている。回りには木々がそこらに生えており、動物のいななきが近くから聞こえてくる。

 本当に遠くへ来たんだなぁ……。

 改めて都会の生活で見ていた景色と大幅に違い、この自然に感動する。同時に、時代が進めばこういう自然が少なくなってゆくと考えるとどこか寂しさが沸いてくる。その気持ちを紛らわすためにも川まで歩くと片手を川の中にへと突っ込ませる。

「冷たっ」

「ここらはどの季節でも涼しいからね。この季節は比較的にマシだけどそれでも冷たいわよ」

「へぇー……」

 そのまま水を掬い上げて透明な、綺麗な水を口の中へと運ぶ。喉を潤す冷たい水がどこか甘く感じ、美味いと思う。

「冥き途の川の水とは大違いだな……」

「ぇ」

「あ、聞こえてた?」

「……えぇ。……まさか……」

「うん。飲んだことあるよ」

「……よ、よく無事だったわね」

 サティアが驚愕の表情を浮かべる。それも仕方がないことだろう。冥き途の水は基本的に死者の魂を運び、死者の門を通すための道のようなもの。死者の魂やら穢れやら不浄やら、激しく人体に悪いものしかない。それをこの異邦人は飲んだと言ったのだ。明らかにおかしい。

「流石に腹痛で数日寝込んだよ……それ以来水は濾過してから飲むことに決まったよ」

「そういう問題?」

 事実濾過して飲んだら何にも問題なかったために、玖楼自身が若干常識の外側にはみ出ているとしか言いようがない。

 取り留めのない事を話し合いながらサティアを先頭に道に沿って歩いてゆく。川を沿って歩いて数分、やがて若干開けた場所へ、川に囲まれた陸地のような場所へたどり着く。今までの川幅はそれほどなかったが、ここを囲む川幅はしっかり太く、底も深そうであった。

「つれてきたかったのって此処?」

「まず最初にね」

 と言うことは次があるのか。そう思いながらもこの光景をよく見る。澄んだ水。魚がいっぱい。木陰で涼しく。いい環境。

「釣りでも出来たら楽しいんだろうなぁ」

「釣り、できるの?」

「まぁ、なんと言うか、少ない趣味の一つだよ」

 道具袋に手を突っ込むと、その中から木で出来た釣竿を取り出す。竿には『リッチ作』と、この世界の言語で書かれておりリールがついていることを抜けば何処でも見れる釣竿だ。無論、リールは玖楼の記憶の中のものをリッチが再現して作ってくれたものだ。

「自分は都会っ子だったけど、小さい頃は家族でよくキャンプとかに行ってなぁ……その時は川で釣り糸たらして釣った魚を焼いて、それを炊いたご飯と一緒に食べたりしたもんだよ。育って一人で暮らし始めても中々捨てられなくて、こういう綺麗な場所ではもうできなかったけど、町の中にある釣堀……あぁ、釣堀ってのは釣りをさせてくれる店ね? そこへ暇なときや落ち込んだときは釣り糸をたらしてたよ」

 そこで苦笑しながら釣竿を戻す。

「と言ってもサティアにはつまらない話だよね」

 そう結論付けた玖楼の手をサティアが握る。

「いえ、十分も楽しいわよ。こうやって話すたびに玖楼の知らないこと、新しいところがドンドン見えてくるの。私はそれが見れるだけで十分に満足してるわ……ねぇ、だったらさ、ちょっと釣りをしてみない?」

「え?」

 釣竿をしまおうとしていた玖楼の手を引っ張り上げて後ろに回りこむと、後ろから抱くように釣竿を構えさせる。突然の行動に驚くと同時に背中の感触にドキドキしだす。

『もげろ』

「……ん?」

「どうしたの玖楼?」

「いや……今、なんか天から『もげろ』って聞こえた気がするんだけど……」

「……私は何も聞こえなかったわよ? 歩きつかれたんじゃないかしら。ほら、そんな時は座ってゆっくり魚でも釣りましょう。まだ日は高いのよ」

 時間は分からないが空を見上げれば太陽は高く昇っており、朝ごはんも食べてきたばかりだ。サティアがつれてってくれるという場所には大いに興味はあるが急ぐ必要もないだろう。

「うん……まぁ、……自分の釣りテクを見せてやるぜ!」

 ササっと、サティアから離れながら釣竿に道具袋からミミズ型のルアーを取り出し、それをつける。ルアー自体を見るのが初めてなのか、ルアーに対して興味津々の様子で顔を近づけてみている。

「これって……偽者よね?」

「生きてないって言うのなら偽者だよ。これは流石に商会に頼んだものだけど、本物そっくりのミミズに釣り針が付いていて、切れたり壊れたりはしない限りは何度も使えるエサなんだよ。エサを買ったり一々捕まえたりするよりはずっとラクだけど、その代わりに一つ一つの値段が高いんだけどね。まぁ、疑似餌とかとも呼ばれたりするよ」

 まだルアーの概念はなかったので版権は取った。商会から売れるごとに1%もらえることになっている。お金自体は魔物を倒せば手に入るのでそれほど困ることはないため、実はそこまで必要としてなかったりする。

 サティアが横に座ってくるのを認識しながらも意識しないようにしてルアーをつけた釣竿を振るい奥へと飛ばす。ポチャンと、軽い音を立てながら川の中へと沈んで行き、それをゆっくりとリールを回しながら引き寄せる。

「おぉー。釣りの事はよく分からないけど、何か凄そうね」

「ぶっちゃけると少し進んだ技術だからね」

 少しの閃きがあればすぐにでも作れそうなものだが、とそのあとに付ける。

 釣竿を軽く、リズミカルに揺らしながらリールを巻いてルアーを引き寄せてゆく。水面に映る魚の影が生き物のように動くミミズのルアーに引き寄せられる様に近づいて行く。その様子にサティアが感嘆の声を上げる。

「上手なのね」

「ここ最近は毎日の様に釣りしてたからね」

「毎日?」

「うん、……っかかった!」

 水面をすれすれで上下していたルアーが急激に重くなり、糸とルアーが引っ張られるように水面の中へと沈む。だがそれを玖楼が許すこともなく、力を入れすぎて糸が切れないように気をつけながらも魚の勢いが弱まった瞬間、即座にリールを回転させ魚を此方へと引き寄せる。

「よ、く、っほ!」

 興奮からかサティアが立ち上がり応援をする。

「お、がんばって!そこ!」

 サティアの声を頼もしく思い、決して竿を握る手の力を緩めずに魚を決して焦らずに少しずつ少しずつと、自分の下へとその姿を手繰り寄せてゆく。だが魚も負けじと必死にルアーに食いついたまま逆方向へと泳ぐと、水面から飛び上がりその姿を晒しながら生命力の強さを表す。

 見た目30cmほどの大きさ、色鮮やかな体色、太陽の光が当たりその鱗に反射して輝くその姿。

「レインボーかっ!」

 此方の世界独特の魚であり食べれば美味しいと、実経験から分かる保障がある。体力はまあある魚ではあるが……、

「自分の敵じゃねぇ!」

 再び飛び上がった瞬間に一瞬だけ力を入れて大きく魚を近くへと大きく引き寄せる。水の中へと戻ったレインボーが再び逃げようとするが、既に岸への距離は僅か2mたらず。玖楼がレインボーが完全に復帰できる前にリールを巻く速度を一段と早く回し、一気にレインボーを岸へと引き上げる。

「捕った!」

 川から引き上げた魚の口の部分を親指を入れるように掴みルアーを抜く。捕まえた魚をサティアへと向け、

「どーんなもんだい!」

 満面の笑みを浮かべてサティアへと見せ付ける。サティアもサティアですごいと拍手を送りながら自分の事のように喜ぶ。

「凄い!私ではあんなふうに上手にできないわ」

「うーん、まぁ、自分はそれなりに慣れてるし……それに」

「それに?」

「もっとスゲェの釣ったから」

 その言葉でサティアの顔が少しだけ、ほんの少しだけ引きつる。

「そ、それって……まさか……」

「うん。冥き途だよ」

 冥き途にも川があるが、死者の通る川とは別に『外』と繋がっているのか生きた魚のいる水溜りのような場所があり、そこで食事のためにも修行の合間をぬっては釣りでご飯の種と心を癒していた。

「普通の魚は結構連れたよ。レインボーとかイワナとかヤマメとか。外の川と繋がってたんだろうね。でも流石に全長7mを超える化け物には驚いたよ」

 うん。流石にアレには驚いた。

「全身が毒々しい紫色に染まったアンコウ? っぽい魚でさ……からだから骨が六本突き出てて、それが足のようにちょくちょく動いてて、足を見た瞬間食べる気がなくなったわ」

「足を見る前は食べる気があったの?」

 うん。一応ありました。食えるものは何でも食べます。だってひもじいもん。

「結局吊り上げた瞬間こっちに敵意丸出しで襲い掛かってきて、自分と一緒に釣りを見てたリッチで倒したよその魚」

 ポツポツとそのときの事をサティアに向かって話し始める。

 ここで玖楼はかなり説明をある程度軽くしているが、その実はかなりひどかった。玖楼一人では吊り上げられないほどの重量の魚をまずリッチの魔術で竿を強化して、ついでに体も魔術で強化して吊り上げたまではよかったが、その着地先はリッチがいたために、何百キロもある巨体がリッチを踏み潰すと防御力はきわめて低いリッチの体が散骨され、剣は持たずに釣竿だけの玖楼はリッチが復活するまでは釣竿を武器に巨大な魚を相手に戦っていた。

 結局、途中でリッチがわざと復活していない事に気がついてリッチの頭蓋骨を盾に使い始めてからリッチが復活し、盾に使われると言う状況から脱出するために即行で巨大魚を退治した。もちろん玖楼を巻き込んで。

 多少話を軽くしたとは言え、玖楼の尋常ならざる生活の一部を耳にして純粋に驚き、玖楼を見つめるサティア。そしてその様子を見て苦笑する玖楼。

「やっぱり……引くよなぁ」

「ううん。別にそういうわけじゃないの。話してた玖楼が楽しそうだったからね」

「楽しそう?」

「玖楼は気がついてない?玖楼が自分や周りの事を話すときはすごく楽しそうだよ?」

「楽しそう……そう……楽しんでるのかぁ、自分……」

 何か感じ入ることがあるらしいのか、小さく呟くと。視線を釣竿へと移す。それを再び構える。

「……もうちょい釣ってくか」

「そうね」

 サティアは玖楼が釣りするのを見たり、釣りを玖楼から習ったりして、二人は時間を過ごした。


                   ●


 二人が釣りを止めて目的へと向かうのは昼頃へと差し掛かってからであった。予想外に長く時間をすごし、そして同じく大量の魚を連れたために、必要分だけを道具袋にしまうと残りを川に流し、出していた道具を片付けると川に囲まれた釣り場からサティアの先導にしたがって離れてゆく。

 釣り場のあった場所のさらにおく、林の間にある僅かに整備された道を通ると今までの林や森があった場所とは違い、中央にある一本の大樹を中心に広がる丘へと到着する。なだらかな丘には色取り取りの花が咲き乱れており巨大な大樹とあわせ、他者を圧倒するような光景がそこにあった。

 しばし景色に圧倒されていた玖楼だが、サティアが腕を引っ張り丘の中央にある大樹の麓にまで行くとそこで手を離し、大樹とは逆の方向へと、今まで通ってきた道のほうへと無言で指を挿す。

「これは……」

「ふふ、どう?すごい景色でしょ?」

 ただただ美しかった。底からは今まで通って来た道だけのみならず、釣り場や牧場、そして北華鏡の集落全体を見渡すことの出来る場所であった。

 釣り場は誰もおらず静かに魚が泳ぎ、牧場では大量の羊達が放牧されそこらで草を食べており、教会の中へと誰かが入ってくるのが見えれば、宿から馬車が動き出すのも見える。村の外へと目を向ければ魔物が優雅に空を飛んでいる姿が見え、少し離れた場所には遺跡のような建物も見えてくる。

 そう、ここからはこの田舎のような美しい風景がまるで一つの絵のように見えてくるのだ。

「すごい……なぁ……」

 玖楼が長らくこういう普通の自然を見たことはなかったために、普通にこの光景に感動していた。その横でサティアは大樹の元で座り込むと何処からともなくバスケットをとりだしそれを開く。そこから漂ってくる食べ物の匂いにつられそちらへと視線を向けると、

「さ、お昼にしましょう?」

 バスケットの中には丁寧に切りそろえられたサンドイッチが並べられており、未だに焼きたてのような香ばしい匂いを発していた。考えるのに1秒、思考を即決しよう死してくれたサティアのためにも座り込み、サンドイッチを一つ受け取る。見たところ挟んである物はトマトとレタスに何らかの肉。明らかに買ってきた物ではなく作って用意したものだというのは見た目でわかる。

「これは……?」

「今朝、玖楼が混乱している間にちょっとね」

 つまり玖楼が完全に復帰するまでの1時間の間にそろえた、と言うわけだ。

 受け渡されたサンドイッチ口の中へと運び味わいながらそれを食べる。その様子をサティアが不安そうに見つめながら玖楼のリアクションを待ち……ニカ、っと玖楼が笑みを浮かべる。

「んまいっ!」

 そのまま手の中のサンドイッチを口の中に詰め込むと、次のをバスケットから取り出す。その様子をサティアが小さく笑いながら見ると、自分にもサンドイッチを取り、それを食べ始める。

 そのまま、景色を見ながらサンドイッチを食べてゆく。

 絶景と言うべき景色を見ながら食べる昼食と言うのはかなり豪華なことである。だが、それでも、

 サティアの表情には一点の陰りが挿していた。

 それは嫌悪や憎悪と言った負の感情ではなく、悲しみ。

「サティア……? 大丈夫か?自分がなんかしたのか?」

 心配する玖楼を他所に、サティアはううんと首を横にフリただ、と言葉を出す。

「ただ……ただ、何で……何で玖楼は」

 次の言葉で玖楼の動きが完全に固まった。

「何で玖楼がそんなに悲しそうに笑うか分からないの」

 気持ちよかったはずの風が何処となく涼しく感じた。


                   ●


 サティアの言葉が放たれてたっぷり数秒、玖楼とサティアが無言でお互いを見つめていた。サティアは悲しそうに真っ直ぐ玖楼を見つめ、そんなサティアを玖楼が信じられないように見ていた。だがそれもそれだけ。そのあと驚愕の表情が玖楼の顔から抜け落ちると、だれにでも分かるような悲しそうな笑みを浮かべる。

「……なぁサティア」

「……えぇ」

「自分さ………………こっちへ来てから年をとったんだ。こっちへ来て七ヶ月しかまだ経ってないけどさ、1歳年をとっちまったんだ」

 玖楼の儚げな印象が強まる。

「言ったよな……自分ってもともとは別の世界っぽい所から来たって。自分からすれば未来なんだよなぁ。魔法なんてものは存在しないけどすごく便利な世の中でさ。動かなくても何でも手に入るような世界なんだぜ?」

 サティアの悲しげな表情は変わらなく、静かに玖楼の言葉に耳を傾けている。先ほどまで吹いていた風もどこか力が弱々しく感じる。

「この世界に来たときさ、真っ先に帰らなきゃって思ったんだよ。だって自分は生きてるしさ。親だって生きてるんだ。心配したのなら警察に連絡して自分の捜索を頼むはずだ。友達とだってまた逢う約束をしていたさ。人一人が消えたところで社会の歯車は狂わないが、それでも自分を心配する人や自分が逢いたい人ってのはいっぱいいるんだ。それに自分の世界はすごいんだぜ? この世界じゃ水が欲しかったら毎日井戸まで行って一日分の水を水がめに集めなきゃいけないんだけどさ、自分の世界じゃ違うんだ。家から出なくても台所へ行けば蛇口一つ捻ればすぐに水が出てくるんだ。飲んでも大丈夫なほど綺麗なやつが。便利だろ? 家具だってパソコンを使えば家から出ずに注文して翌日には届くんだ。料理もそうだ。家から3分も歩けばコンビニがある。材料なんてなくても。料理なんて出来なくても。コンビニへ行けば既に完成したものが売られている」

 サティアはパソコンもコンビニも知らない。だが言葉からその利便性を理解していた。そして同時に、玖楼の言葉が悲痛なものへと変わってゆくのも感じていた。

「自分さ、……この世界へ来て帰れないって言われたときは正直ショックだったし、幽霊や今まで本やゲームの中でしか見たことのないような世界が広がっててさ、すごく戸惑ったし大変だった。でもリタやナベリウスに救われて、リッチと語り合って、少尉と理解しあって、自分が来たこの世界が好きになってったんだ。リタは少し心配のしすぎだけどやさしいのは分かっている。ナベリウスも無口だけど、言葉に出さないだけで実は感情的だということを知ってる。リッチもあんな姿になったのはものすごい経歴があったはずなのに、それを乗り越えて普通でいた。少尉も流れ着いたはずなのに自分を同郷の友と呼んでくれた。ギュンギュスカーのメイドはノルマと金に関してはうるさいけどとても信用の置ける人間だ。そして……」

 サティアの目を見る。

「……そしてサティアの事は正直好きだ。そして皆のいるこの世界が自分は好きだ。好きになれた。まだまだこの世界の本の一部しか知らないけど、その一部を自分は好きだと断言できる。だからさ……だからさ―――怖いんだよ」

 玖楼の様子が豹変する。僅かに体を震わせながらまるで自分の体を抱くように手を回し、自分の身を護ろうとするように体を縮める。

「だって、だっていきなりこの世界に現れたんだぞ?リッチやナベリウスでも俺が現れた原因も方法も分からない。だから何時だって消えることはあるかもしれないんだ。いやだ、消えたくない。消えたくない! まだ、この世界に着たばかりなのに、好きになり始めたのに、戻れても戻りたくない! 緩やかに腐ってゆくあんな世界より、ここで地位も金も名誉も社会も何のしがらみもなく世界を見て生きたい! 消えたくない! 消えたくないんだ……! 考え出したら今にも消えそうで怖いんだよ……!」

 それは、玖楼が始めて胸のうちから出して感情の全てなのだろう。リッチにもリタにもナベリウスにもこれは分かっていたことなのだ。サティアが気づけて彼らが気づかないはずがない。だが、彼らには何も出来ない、何もしてやれない。だから何も言わず、そのままにしてた。

 だがサティアは違う。もし資格があるとしたら、それは『踏み込む』資格。

 そしてサティアには―――

「玖楼」

「自分は……自分は……ンッ!」

 ―――踏み込む勇気があった。

 玖楼の唇にやわらかい感触がした。甘い匂いが鼻孔をくすぐり頭を痺らすように満たすと同時に、暖かい物が体を抱いていた。玖楼の中であふれていた恐怖が少しずつだがその感触により消えて行く。定まってなかった玖楼の焦点が段々と落ち着き目の前の現実を受け入れ始める。

 つまりサティアにキスされ、その腕の中に抱かれていると言う事実を。抱擁から逃げる事とは敵わず、唇を離した隙に戸惑いの表情でサティアを見つめる。

「な、あ、サティ―――?!」

 戸惑う玖楼に対してサティアはただ優しく玖楼を抱き包み、

「―――大丈夫よ、玖楼。玖楼は……ここにいるよ」

「ッ!」

「感じるよ。暖かく、壊れそうで、寂しそうな玖楼の事を、誰よりもすぐ傍に……強く……強く感じるよ」

「さ、サティアぁ……」

「玖楼は夢でも幻でもないよ……ここに、私の腕の中にちゃんと存在している。『ここに』いるわ。だから迷わなくても悲しまなくてもいいの。玖楼はここに存在してていいの」

「それでも、俺の存在は……!」

「居場所がないならなるわ」

「サティア……?」

 その丘にいるのは二人だけ。村からの距離は遠く、辺りに人の気配はなく、感じられるのはお互いのぬくもりと風の感触。日差しから二人を隠すように大樹の陰が二人を護り、太陽の光から二人を遠ざける。

「私が、玖楼の居場所になるから―――」

 その言葉が玖楼を、そしてサティアの両者を何よりも縛る呪いを得るきっかけとなった言葉であり、それと同時に両者を結びつける最愛の祝福と化す言葉でもあった。


                   ●


「もげろ」

「急になんですか」

「いいえ、私が得た新たな知識によるとこういう場合はそういうのが正しいらしいから言ったまでよ」

「その知識は何処から」

「トモダチからよ―――お、凄いわねぇ……あら、本当に初めてなのかしら」

「……マリーチ?人に書類を押し付けておいて何をしてるか聞いてもよろしいでしょうか?」

「何って、くすくす。うふふっ。私がする事と言ったら……あら、すごい。やるわね」

「…………いいです。もう聞きません。あまり人のプライバシーを侵害するのもどうかと思いますよ」

「いいのよ。『トモダチ』だから」

「友達、ですか」

「えぇ、そうよ」

「ならもう片方のお友達にもどうぞ一声かけてください。もうすぐそこまで来てますよ」

「あら、もう来てたのかしら?」

「えぇ」

「……そう、来たのね―――食欲魔人」
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