陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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二刀流 ―――ビッグ・イベント

 ……なんなんだろうなぁ、これは。

 ロッキングチェアに座り、カップを両手で握りながら中身の紅茶をちびちび飲む。まだまだ耐久値は残っているからゆっくり飲むことができる。と言っても、飲み物系、特に紅茶は耐久値の減りが早い。油断すればすぐに飲めないものになってしまうだろう。このままゆっくり茶を飲み続けようとするが、

「おい、キリト」

 下からエギルの声がする。


「朝からお前目当ての客が多すぎる。どうにかしろ」

「どうにかしろって言われても」

 両手を上げてお手上げサインを見せるとエギルが露骨にため息を吐く。もう今朝か何人目の客だろうか。ネットゲーマーには粘着な連中がいるのは今更な事だが、こうも引っ切り無しにやってくるとさすがにまいるものがある。朝から邪魔させてもらっているエギルには悪いが、もうしばらくここでゆっくりさせてもらおう。

「さて」

 紅茶に軽く口をつけ、

「軽く状況を整理するか」

 こんな状況になってしまった理由を思い出す。


                           ◆


 第七十四層の攻略は十人以下のプレイヤーによってあっさりと起こってしまった。本来はありえない現象に対しての答えが、

 ユニークスキル、そして≪断頭≫の名が上げられたことだった。

 サイアスは二十五層、そして五十層でのボス攻略で既に過剰戦力を証明している。そのため、そこまでの驚きはなかったが―――ユニークスキル≪二刀流≫の名は生き残った軍プレイヤーからすぐさま広がった。結果、≪神聖剣≫に続く新たなユニークスキルプレイヤーとして認識され、爆発的に名前が広がった。

 ギルドに勧誘する人間、

 習得方法を教わろうとする人間、

 嫉妬から殺しに来る人間、

 様々な人間が近寄ってきた。改めて人間はこんな汚い生き物なのかと思ったりもしたが、全ての人間がそうではないことも知っている。だから気分としては若干複雑という程度だ。そしてそれだけなら時間が経って噂が収まるのを待てばいい話だったのだが、

『キリト君、私KoBを休むわ』

 そんなことを言うものだから、俺の周りはさらに騒がしくなる。

 アスナはギルド≪血盟騎士団≫の副長だ。”あの”ヒースクリフが直々にスカウトした人員だ。ヒースクリフがそれを簡単に手放すはずがない。が、

『君―――このままだと何時か死んでしまいそう』

 アスナの言った言葉は解るし、重く残っている。解っている、別に自殺志願者ってわけではないのだが……まぁ、それを考えたところでしょうがない。アスナは血盟騎士団、KoBを自分の為だけに休みを入れると言ってくれた。それは確実に攻略の重要な人間を引き抜く事だ。アインクラッドの攻略がまた少しだけ遅れるというのは言い過ぎでもない。が、それでも、

 アスナを独占できているようで、少し気分がいい。

 自分がアスナに惹かれている事実は偽りではない。否定する気にはなれない。いつからだろう。確実に狂戦士の様に戦っていたあの時じゃなくて、多分もっと最近―――圏内事件、あの時ぐらいからだろうか、少しだけ意識したのは。

 と、

 そこで、

「き、キリト君!」

 意識が思考の海から引き戻される。再びエギルの店の二階、ロッキングチェアに座っていることを自覚する。目の前、近い位置にアスナの顔があった。思わず紅茶を落としそうになりながらも、何とか体制を整え直し、

「ど、どうしたの?」

 アスナは依然困った表情で、

「ど、どうしようキリト君―――キリト君、団長と戦うことになるかも」

 ……え?

 何故そんな事になるんだ―――


                           ◆


 ―――と、考えていたのが約二日前の事。驚愕し愚痴っていたキリトは死んだ。ここにあるのはヒースクリフを倒す事だけに闘志を滾らせる新生キリトだ。待っていろヒースクリフ。お前を倒すのは俺だ。絶対にぶっ倒す。

 場所は変わり、七十五層主街区≪コリニア≫。その街は解放されたばかりという事からも大量のプレイヤーがいる。解放されたばかりの街にプレイヤーが集まる状況は一種のイベント化していて≪街開き≫と呼ばれるようになっている。その興奮は凄まじいものがあって、既に街の解放から数日が経過しているのに街は解放当時と変わらない賑わいを見せている。第五十層の主街区≪アルゲード≫に匹敵するクォーター階層の街だ。ローマ風の造りのこの街は多くのプレイヤーの拠点となるだろう。

 ともあれ、今日の自分はこのお祭りの空気を吸いに来たわけではない。

「な、なにこれ……」

 横で若干アスナがひきつった笑みをしているが、

 まあ、話がヒースクリフ以外に聞こえていた時点でこうなるのだ。

 約二日前、アスナが現れて衝撃的な事を伝えてくれた後、即座にKoB本部へと俺とアスナは向かった。そこで対峙したヒースクリフはある条件を出してきた。

 アスナを連れて行きたいのなら俺に勝て、とそう挑発してきたのだ。

 断る理由はなかった。個人的に、一人のプレイヤーとして、ヒースクリフの実力に興味はあるというところもまあ、そこそこある。だがやはりアスナと居たい、その欲求に変わりはない。

「黒エール! 黒エールいらんかねー!」

「ヒースクリフvsキリト! 応援グッズ売ってるよー! 血盟騎士団オフィシャルグッズだよー!」

「観戦と言えばポップコーン! ポップコーンはいかがー!」

「ここは俺の土地だ!」

「いいや、俺が先に取ったね!」

「ならば!」

「そう!」

「勝負!」

 そのまま地面に頭をつけようとする奇妙な勝負から目を放し、中々凄い事になってるなあ、とどこか遠い目でその光景を眺める。いや、この騒動の中心人物が自分だという事を考えると、なんだか街開きというイベントの燃料にオイルではなくニトロを投下してしまった気分だ。とはいえそれを抜いたとしても、

 ……お祭り好きだよな。

 基本的にゲーマーって人種はお祭りが好きだ。イベントとか、そういう言葉には弱い。何かあればすぐに暴れたりお祭り騒ぎ。粘着も多いが、こういう性質の連中も多い。それに、アインクラッドは基本的に暗い話ばかりで明るい話は少ない。ここで最強のユニークスキル決定戦なんて出し物は、アインクラッド攻略組の士気を回復するのに悪くはないかもしれない。

 と、理屈では解っているけど、やはり少しは自重して欲しい。

「ばぁ」

「うぉっ!」

「きゃぁっ!」

 呆れた目で周りの光景を見ていたらいつの間にか背後に現れた存在が軽く脇腹をつつくように脅かしてきた。くすぐったさと驚きが混じった、若干変な声が自分とアスナの口から洩れた。素早く後ろを振り向くと、ローブ姿の男がいた。ローブの中身を軽く見せてくれる存在の名前は知っている。

「サイアス」

 唇に指を当て、シー、っとジェスチャーを見せる。

「最近益々有名になって粘着共やアンチ共の活動が酷いから名前は出さないでくれると嬉しい」

「あー……」

「ご愁傷様です」

 俺の場合はこういう形として有名に、話題の中心となったツケが回ってきたが、サイアスの場合はもともと嫉妬や殺意を多く抱かれている男だ。おそらく何らかの攻撃を最近受けたのだろう。

「で、ヒースクリフと女を賭けて勝負だって? やるな、キリト」

「べ、別にそういうわけじゃ……」

「……ふーん……へぇ……」

「あ、いや、言葉どおりの意味じゃないんだよ!」

 サイアスの言葉を咄嗟に否定したらアスナに睨まれた。その光景を笑って眺めるサイアスは確実にこの光景を楽しんでいる。というか確実に誘導している。……目に光が戻ってきたのは悪くないけど、もう少し性格はどうにかならないのだろうか、とは良く思う。あの再会以来アスナとの仲をネタにされ続けている気がする。

「アスナもいい女を目指すんだったらそれぐらいで咎めるんじゃなくて、気にせず流す器量を見せなきゃ駄目だ駄目駄目」

「貴方に女の何が解るんですか」

 若干ムスっとしたアスナがサイアスに突っかかるが、

「そういう所が若干子供っぽいんだよ。愛しのキリト君を独占できてるんだからもう少し幸せそうな顔をしたら?」

「愛しのキリト君ってなによ!」

 若干声の大きくなるアスナを見て、確実にサイアスは楽しんでいるというのが言える。何故こうも性格が酷いものになったのだろうか。と、そこで、

「キリト、少しこっちこい」

「ん?」

 肩に腕を回され、引っ張られる。

「少し借りるぞ」

「借りるも何も私のじゃ……」

 何かブツブツ言うアスナを放置してサイアスに引っ張られ、人の少ない少し離れた位置にまで移動する。一応だがまだアスナは見える。肩を組み、頭を寄せてサイアスが話しかけてくる。

「キリト、ヒースクリフに勝てると思ってるか?」

「―――もちろん」

 これだけは疑っていない。ヒースクリフは強い。確かに強いが、不死でも無敵でもないし、プログラムでもない。人間だ。あのナハトやジューダスと比べるとどうしようもなく人間の範疇に収まる存在だ。それに例えあの化け物のように圧倒的差があったとしても、

「俺はもう負けない」

 もう二度とあんな悔しい思いはしたくない。あの敗北以来、あの二人に勝てるようになるために今まで以上にシステム外スキルや体の動かし方を重視してきた。それも全ては二度と敗北しない様に。

「あぁ、それならいいんだ。だったらこの年長者がキリト君にちょっとしたアドバイスをあげようと思ってな」

「アドバイス?」

「そ、ヒースクリフ対策みたいなものさ」

 ヒースクリフ対策。そういえばサイアスは一度ヒースクリフと共同戦線を五十層で行っていたはずだ。だとしたらその時にヒースクリフの神聖剣を見て、その動きを覚えているかもしれない。確かスキルとしては十字剣、そして盾の両方に物理的攻撃判定を持つスキルだったことを思い出していると―――

「―――あの男を絶対に信用するな」

 少々予想外な言葉が聞こえた。

「信用するな?」

「あぁ、あの男を絶対に信じるな」

 そういうサイアスな声には確かなものがあった。

「うまく説明できないけど……あの男は絶対に敗北しない」

「それって俺が負けるって事か?」

 それはちょっと黙っていられない、と言おうとしたが、サイアスの真剣な顔に黙らされる。

「いいか? あの男は勝利を疑わないんじゃない。勝利が結果であり、その結果を欠片も疑ってないんだ。当然だと思っているんじゃなくて、この結果は最初から決められている―――やつはそんな目をしていた」

 サイアスの言葉に黙り、

「キリト、絶対にやつの目から視線を逸らすな。お前もPV自体はかなりやっているだろうから知っているかもしれないが、大抵のプレイヤーは攻撃する前にその方向を目で見る。目を見るだけで大体どう動くか察知できる」

 それができるのはお前ぐらいだと言いたいが、そういえばそんなレベルの連中がごろごろいるのがサイアスのギルドだったと思いだし、

「期待するな」

「え?」

「そういう小細工には一切期待するな」

 サイアスが組んでいた肩を解放する。目を見ろと言っておきながら期待するなって……。

「おいおい、そりゃあどういう意味だよ」

「ヒースクリフの目を見れば解る事だよ―――剣を交えるお前の方がもっと良く理解できるかもな。これ以上は言葉にうまく表現できねーわ」

 軽く頭を掻きながら困った様子のサイアスは体でこの話はここまでと、表現していた。いろいろと謎すぎる言葉でうまく概要を掴めないが、この男が裏切ったことはないし、信用も信頼にも足る人物だ。言葉を覚えておいて問題はないだろう。

「あ、あと」

 サイアスが言葉を送ってくる。

「いい女じゃないか。掴んだ手を絶対に離すな……幸せになれよ」

「サイアス!」

「ジーク・ハイル・ヴィクトーリアだ、キリト」

 そう告げるとサイアスが人ごみに紛れる様に姿を消した。追いかけようと思ったが―――やめた。

 たぶん恥ずかしいセリフを言って今頃頭を抱えているから一人苦しませることにする。

 駆け足でアスナのところにまで戻る。もうムスっとした様子はない。

「で、何を話してたの?」

「ヒースクリフ対策かなぁ」

「へぇー。七十五層の時に初めてまともに会話したけど、結構フランクな人なのね。≪断頭≫何て厳つい二つ名があるし、攻略会議に参加するたびに殺気撒き散らしていたからどんな殺人鬼かと思ってたのに……」

「あははは……まぁ、昔はそんな感じだったよ」

 俺もそうだった。

「そうなんだ?」

「あぁ、好きだった人が自分を庇って死んじゃったんだ。それで一時期……」

「あ……うん、そうだったんだ……」

 それはサイアスへの同情か憐みか、どちらなのだろうか。だが、そういう感情を抱くのは筋違いだと思う。あの男が悩み、迷っているのは解るけど、後悔だけは絶対にしてない。だから同情や憐みといったものはこっちの勝手なイメージだ。

 だから、

「でもって必勝の策を俺は見出した」

「あるの? そんなの?」

 アスナがジト目で視線を送ってくる。

 そう、これぐらいの温いのが今は気持ちがいいんだ。勝った後か、負けた後か、それは判別はつかないけど、アスナとの関係も変える必要がある。

 とりあえず今は、

 ―――勝利。

 それだけを目指す。
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| 断頭の剣鬼 | 09:21 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

バカップルが止まる事を知らないorz
主にキリキリが(笑)
しかしそれでもキリキリの健闘に期待しています。

そいで、ついでに誤字報告です。

 若干声の大きくなるアスナを見て、確実にサイアスは楽しんでいるというのが言える。何故も子運何性格が酷いものにあったのだろうか。

 若干声の大きくなるアスナを見て、確実にサイアスは楽しんでいるというのが|分かる(○)。|何故こんなに性格が(○)酷いものに|なった(○)のだろうか。

ではないでしょうか?
勘違いかもしれないのですが、ご確認ください。

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/08/16 10:38 | URL | ≫ EDIT

キリトと団長が対決しようとしてるのを余所にDOGEZA勝負が始まろうとしていらっしゃる・・・・・・
これは同時進行フラグ・・・!

| 若年法師 | 2012/08/16 10:45 | URL |

でたよ必勝(笑)
もはやその言葉自体がフラグw

| 羽屯十一 | 2012/08/16 15:05 | URL |















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