陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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二刀流 ―――ウォット・アイ・キャン・ドゥー

アインクラッド第七十四層
二〇二四年九月月末


 結局のところ、あの日、位階をまた一つ上ってから、

 俺のアインクラッドでの攻略活動は完全に終了した。

 今まで無理をしてまでレイドパーティーに参加していたのが嘘の様に、俺は攻略に参加しなくなった。その代わりに、もっと人と過ごす時間が増えた。と言っても昔の知り合いじゃない。彼らには今でもまだまだ負い目を感じている。だから、

 一緒に過ごすようになったのは黒円卓の人間だ。


 以前は完全に修行目的でしか訪れなかった黒円卓のギルド本部だが、今まで以上に踏み込んでみると、意外と言うか、やはりと言うべき、”それだけじゃない”人間という事が見えてくる。戦闘力しか見なかった自分はつくづく視野が狭かったと思いつつ、少しずつ話をする回数を増やす。

 たとえばトバルカインはリアルに妹がいて、黒円卓の準団員扱いなんだとか。準団員だとか、リアルにも黒円卓がしっかりと存在していたとか、そういう事を一旦頭から追い出して話を聞いていると、どうやらトバルカイン自慢の妹らしく、小さい頃に剣道の大会で何度か優勝している実力の持ち主らしい。その話をし始めるとベアトリスも交じってきて、実に楽しそうに話を続けるものだから、それだけで丸一日潰れてしまった事がある。

 またある日はベイと過ごしたが、その時驚いたのはベイにも”妹”がいた事だ。正直なるべく控えめに言って殺人的な眼光を持っている兄を持って苦労しそうな妹だな、と言ったら本気で殴りかかられた。そして妹という単語に反応して再びトバルカインが湧く。

 正直大の男が二人もそろって妹自慢をする姿はキモイとしか言いようがなかった。唯一の女性がトバルカインのサポートに入ってさらに見苦しかった。

 あぁ、だけど、

 こんな日々が抜けていた。

 アインクラッドで、最初は味わっていた刹那だ。

 まだこんなに歪んでいなかった頃、純粋にアインクラッドをゲームとして楽しんでいた頃の気分だ。いや、正確に言えば違うのだろう。だけど、あの頃を思い出させる賑やかさを認識できるようになった。これは心の余裕なのだろうか。

 そうだ。

 怖い。

 未知は何時だって怖い。

 踏み出した先が暗闇なのだ。誰だって前に進むことを躊躇するだろう。俺はそれに特別敏感なだけだ。だから、変わらない、そう思っていた。だけど変わってしまった。変わってしまって、それが悪くないと思ってしまった。最初の憎しみも目的も俺の中でまだ強く根付いて残っている。

 だけど、

 辛いんだ。

 茅場晶彦という明確な目標に会えず、復讐を果たせないまま一年以上経過している。目標があってもそれまでの道が見えない。だから軽い迷子の状態になって、出口を見失いそうになるのだ。どうしても気に入らないやつや、殺したくなる奴もいる。それでも、

 俺は、確実に丸くなっていた。

 それを自覚しながらも、俺は一つだけ解らないことがあった。

 それは―――


                           ◆


「……」

「……」

「……」

「……」

 無言。ひたすら無言。

 七十四層主街区の道路をマキナと二人で無言で歩く。

『……』

 思わずマルグリットまで黙ってしまう程に無言だ。

 マキナと二人一緒に歩いているというのは語弊だ。最近勝手にマキナがついてくる。それこそ大昔のモンスター育成ゲームで手持ちのトップに入れたモンスターがついてくる様に。最初はなんか用事があるのだろうと、そう思って放置してれば狩りについてきて戦い方を見せてくれる。それはまあ、便利だった。語るのが得意じゃない。それは見ていて解る。ただそれが数ヶ月も続くとなるとさすがにキツくなってくる。

 というよりも現在進行形で辛い。

 どうにかならないのかこの無愛想系軍人マスコットキャラは。

「……」

 そんな内心を知るはずもなく、主街区をを抜けて、街の端にある転移門へと到着する。これを使えば一瞬で迷宮区へと飛べる。

 基本的に、俺の攻略は終わった。だからといって剣を振るわなきゃもどかしくなるし、何もできないってわけじゃない。基本的に迷宮のマッピングが主な活動となっているのだが……、

「マキナ」

「……どうした」

「いや、いい加減喋ろ」

「何故だ」

 転移門広場の端へマキナを引っ張る。今まで我慢していたがそろそろ限界だ。心の安息の為にも理由ははっきりさせておきたい。マキナの服装は軍服姿だが、俺はローブで姿を隠している。そのため、少し注目を集めやすい。

「お前、ここ数ヶ月なぜ俺に付きまとうんだ」

「強くなりたいのだろう」

「……」

「……」

「……」

「……」

『すべった……?』

 そういう単語は忘れろ。

 恐ろしいほどにコミュ障。というよりも会話が成立していない。もう少し喋る気にはなれないのだろうかこの黒騎士は。

「お前は」

 また口を開いたと思ったら、

「戦友だ。最初はどうなるかと思ったが……存外いい方向へ転がったようだ。だがまだ見るに堪えん。女を口説くのに洒脱さは大事だぞ」

「いや、意味が解らないよ」

 何かいい話をしているように見えて、実際かなり意味不明だ―――説明すべき会話の中枢部分が抜けているからだ。会話の始め、そして終わりだけをピックアップして話したのでは全く話が通じない。この男そろそろ本気でどうにかならないのか、そう思い始めたときに、

「要するにガワの問題だ」

「ガワ?」

「俺たちはこのアインクラッドでは戦士のガワを着ている。生きるために戦士として振る舞い、戦士として生きる。人は夏になったら夏服を着るが、冬になったら冬服へと服を変える。貴様はそれが苦手なようだ。着る衣を変えればそれに自然と心もついてくるはずだ」

「……」

 そう言われてしまうと何も言い返せない。マキナの言う”ガワ”を変える事はかなり苦手だ。それこそあの数か月前の事件の様に、何か劇的な事件でもない限り俺は衣だけじゃなく中身を変えることもできない。

「棺の討伐以来、貴様は新たな衣に慣れようと苦労している。総じて着慣れない服とはあまりいい感じのするものではない。ずっとそのままでいる必要はない。自分のガワを変えることに慣れろ。あまり真面目にやっていると何時か必ず自滅するぞ」

『いい人だね』

 鋼鉄のような男だと思っていたが、存外それは”ガワ”なだけで中身は結構違うのかもしれない。ともかく、今の行動、この発言は確実に此方を心配してくれているもので、自分にできる行動をしてくれているのだろう。そして自分の前では偽る必要はないと言っている。

「洒脱さは女を口説くのには必要らしいぞ」

「……はは」

 女を口説く、と来たか。

「悪いがもう女を口説く予定はないからこの姿で満足しとくよ」

「そうか」

 そう言ったっきりマキナが黙る。言うべきことは言い終えたという事だろう。必要な事だけを喋ってそれ以上は語らない不器用な男だとは思うけど、それでも心配してくれるいい人、という認識にしておこう。……ガワの話には結構勉強になる部分もあったし。

 この数ヶ月で自分が大きく変えられたという認識はある。やはりか、と思うのと同時にそれが悪く思えないのはなぜなのだろうか。深く考えるのは性分じゃないから省くとして、

 人間という生き物は流動的に変化し続ける生き物なのだろう、と、納得しておく。

「ん?」

 そこで、転移門広場にいる見慣れた姿を見かける。前見た時とは装備が若干異なるが、全身黒一色の姿は見間違うはずはない。

「おーい」

「ん? お」

 軽い気持ちで声をかけると、それに反応して此方を向く。やはりそうだ、キリトだ。転移門の前にいるキリトに近づく。

「おはよう」

「おはようサイアスに、えっと……」

「マキナだ」

「お、はようマキナ」

 キリトとマキナは初対面なのだろう、マキナの放つ威圧感に若干押されている。

 これで軍人兼芸人だから世の中狂ってる。ドイツは間違いなく狂っている。

 マキナの威圧感に押されているキリトに救いの手を差し伸ばすべく、口を開く。

「これから攻略か?」

「あ、いや、うん……そうなるのかな?」

「歯切れが悪いな」

 何やらキリトの歯切れが悪い。が、マキナは何かを察したのか、軽くキリトの肩に手を乗せ、

「洒脱さは女を口説くのには大事だぞ」

「お前は何を言っているんだ」

 マキナのトチ狂った言葉に眩暈を覚えそうになる。キリトも乾いた笑いしか零さない。

「ま、俺たちも適当に潜っているから」

「あ、うん、じゃあな」

 ひきつった笑みを浮かべたキリトが小声で洒脱さ等と言っているが、あの少年はこれから女を口説く予定でもあるのか。無意識に口説いてるから今更テクニックの一つや二つ必要なさそうなのが正直な感想なのだが。

 何時までも転移門広場に用はない。

 さっさと転移門を抜けて迷宮区へと入る。


                           ◆


 迷宮区という場所は冒険者が死ぬ可能性のある場所で、最も危険度の高いところだ。特に最近のアインクラッドの迷宮区、特に最前線付近はモンスターがプレイヤーの動きを”学習”することもあって、攻略難易度は上昇している。それでも、

 一撃だ。

 マキナの拳が一撃でこの層では戦いにくい相手に入る≪リザードマンロード≫の頭を吹き飛ばす。防御に入ったバックラーごと、頭を吹き飛ばす。特に力を入れたわけでもなく、強すぎる身体能力で拳を繰り出した結果、最前線のモンスターでも耐え切れなかった、それだけの話だ。現在知る黒円卓のメンバーで、ラインハルトを抜けばこの男が最強だという話を聞いていたが、トバルカインとはまた別種の強さを持っている。その強さには正直尊敬の念を抱くところがある。

 ……ただ芸人じゃなければなぁ……。

 時折ネタを挟むのはやめてほしい。腹筋が死ぬ。

 基本的に迷宮区で俺たちが死ぬことはない。骨の姿の巨大なモンスターも殴れば死ぬ。

 リザードマンロードも一撃で死ぬ。

 基本的に全てが一撃で死に、此方が攻撃を受けてもダメージはない。

 それだけ生物から、システムから逸脱している。正直に言えば、こんな無敵モードはいらないし、つまらない事この上ない。が、倒すべき相手の事を考えるとこれがどうしても必須になる。だからそこはぐっと抑え込んで我慢し、

 迷宮区を歩き回ることでマッピングを進める。

 迷宮のマッピングというのはかなり重要だ。

 最前線のマップデータはレア装備並みの価値が出る。一番危険なエリアである最前線は入れる人間が決まっている上、そのすべてを回ろうとすれば危険性は上がる。そして宝箱を開けずに回った場合、中身がとられてない事からマップデータにはさらに価値が出て、トレジャーハンターは喉から手が出るほどに欲しがる。売ればもちろん大金になる。

 が、別に売ろうと思ってこうしている訳ではない。

「……ここも終わりだな」

 道の一つを進んだ結果、行き止まりに到着する。これでマッピングが九割完了する。残った道は一本だけ。今までボス部屋が発見されていないことを考えると、その先で道が分岐しなければ、その先がボス部屋だ。

 これが、俺に唯一できる支援だ。

 強くなりすぎて戦えない。だけど戦うこと以外にできる事なんてないし、早く、なるべく早く上層へ、百層へたどり着きたい。そこには確実に茅場晶彦が待っているから。だから唯一思いつけたのがマッピング、そしてモンスターデータの採取だ。モンスターのデータは倒せば自然に集まるし、マッピングも歩けば埋まる。だから迷宮区を体を鈍らせない様に適度に運動しながら歩けば、それだけで支援になる。

 自分で戦えないのはもどかしいが、これ以外に思いつく方法はない。

「一旦休憩エリアへ行こう」

「……あぁ」

 黙って付き合ってくれるマキナに感謝しながらも、考える。

 本当に、これでいいのか。

 復讐はどうした。

 本当に成し遂げたいのならこの力を使って勝手に迷宮を、ゲームを進めればいい。自惚れでもなんでもない、システムの”内側”の存在であれば絶対に俺を倒せない。それは確信している。だから百層まで、茅場晶彦が用意したボスモンスターでは俺を絶対に止めることはできない。目的を果たすためだけだったら一人で皆殺しにしながら進めばいい。

 そう考えると、

 ―――果たして今の自分はこれで正しいのか。

 もしくは、

 正しいと思わされているのか。

 そう悩むことが、多々ある。

 ……マキナ程うまく”ガワ”を変えきれていないのかもしれない。
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| 断頭の剣鬼 | 11:16 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

もうやめて!サイアスの腹筋のHPはとっくに0よ!!
────いいぞもっとやれ(

| 蒼桜 | 2012/08/12 11:34 | URL |

アホタルは可愛いよア蛍(笑)
そして妹ということはヘルガ姉さんじゃなくてサクヤですかッ!?
なんてオレ得(笑)

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/08/12 12:52 | URL | ≫ EDIT

ああ、相変わらず芸人なんだw
それでこそマッキー!

| 羽屯十一 | 2012/08/12 14:22 | URL |















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