陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

| PAGE-SELECT |

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

日常の狭間

 朝日が眩しい。既に早朝は過ぎ、都を覆い隠す朝霧が少しずつだが無くなってくるのが見える。霧を裂いて差し込んでくる日差しは強く、本日が天気の良い日になる事を証明していた。それを認識しつつ、埃や泥等で軽く汚れた自分の体を少し動かす。関節の各所が疲労で熱を怯えているのが感じられる。軽く掃出し息にも疲労が混じっている事を感じられる。疲れを感じつつも、やり切った感覚を感じ、近くの階段に腰を下ろす。

 視線を持ち上げれば朝日が差し込んでくる、雲の切れ目が見える。その光景に軽く感慨を抱きつつ、個人所有の位相空間に保管しておいた携帯食料を取り出す。笹の葉でくるまれたそれは極東式の携帯食料、忍者フードと言えるものだ。こうやって徹夜明けの日、屋敷に戻って食べる時間がないときに腹を膨らませるためのものだ。この食料の中には食符という食べる事の出来る符が小さくだが混じっており、それを食べると腹が膨れるようにできている。非常に便利な携帯食料だ。腹が膨れ、栄養があり、そして保存できる。味もそこそこ行ける。ただ味気ない事だけが弱点らしい、弱点だろう。

 だがこういう生活がもうしばらくも続いていると正直飽き飽きしてくる。

 いい加減、鹿角の温かいご飯が食べたい。

≫ Read More

スポンサーサイト

| 境界線上の写本保持者 | 15:16 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

境界線上の写本保持者 序章 日常

 日が少しずつ落ち始める夕方、そこには三百に届く集団が武器を持って戦っていた。

「第五、第六、第七部隊―――弓兵掃射」

 表示枠(サインフレーム)を通して出す命令を手足となって働く部下達が忠実に従う。魚鱗の陣の背後で弓を持つ三つの部隊が前方の空へと向けて弦を引き、そして弓を放つ。魚鱗の陣で防御を固める三河警護隊総勢三百名のうち百五十名で構成されているそのチームは勝利の為に命令に対して一切の疑いを持つ事はない。

≫ Read More

| 境界線上の写本保持者 | 20:23 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

境界線上の写本保持者:プロローグ

 昔から、見る夢がある。自分でも思うが、かなり荒唐無稽なものだ。思わずクスリと笑い声を零してしまいそうになる、そういう類の夢だ。正直二流の草子でももうちょっとマシな物語を書きそうな、そんなレベルの夢だ。普通なら笑い飛ばしそうな話だが、不思議とそれが嘘には見えない。何故か夢を見るたびにそれはどこかであった、実在の物語だったと思える。

 その夢は、獣を思わせるような男が主役だった。

 男は囚われた。それが何であるかは理解できない。だから男の傍から見つめるようにして男の行動の全てを見た。

 怨敵と叫びつつ狂喜していた姿を、囚われ犯されても保つ理性を、ただ一途に望んでいた終焉を。獣のような男の一生を無間の壷の底で、共に駆け抜ける夢を何度も見た。その記憶の一つ一つが鮮烈に脳裏に刻み込まれている。那由他を越えて無限に続く地獄を駆け抜けた一人の悪の形。解放を望んでいた悪。

 超巨大な武神と、同じく巨大な武神を駆り戦う獣は本当に楽しそうで、そしてその願いを―――。

「……ス……」

 声がする。これで今日の夢も終わりだ。昔は良く見ていた夢だが最近ではめっきり回数が減り、寂しかったものだ。だが朝が来ては仕方がない。

「……スター」

 あぁ、解っている、今起きるから。

「マスター」

 自分を起こしてくれる声によって少しずつ意識を覚醒させてゆく。夢を見ることはつまり浅い睡眠の中にあるという事。声があれば簡単に起きる事ができる。が、久方に見ることの出来た貴重な夢を邪魔してくれた礼は必要だと判断する。だからあと少し、もう少しだけはこの布団の中でまどろんでいても問題はないはずだ。だからあと少しだけ、もう少しだけこの温かみの中でまどろむ事を許して欲しい。

「マスター」

 いいだろう? 今日は特に予定がなかったはずだ。

「起きてくださいマスター」

 感情の篭ってない声がする。感情が篭っていないだけで相手は此方を常に想っている事は知っているし、内側が熱く滾っている事も知っている。いわば見せかけクール。この状況は一般的に見て幸いなのだろう、と思考しつつ眠気に誘われるように意識を手放して行く。

「マスター……」

 再び声がする。

「起きないのであればこれを好機と見てエロ草子っぽい展開を始めます」

「やめてっ!」

 眠気を全て吹き飛ばし起き上がる。

「やめてっ! マジでやめて! 本当にしないで、お前が見てるのって大体触手調教モノだろ! アレ一体どこで手に入れてるの? パーパはエセルちゃんをそんな風に覚えはありませんよ!?」

 起き上がって見えるのは腰の上に居座る、一人の少女だ。外見年齢からして、まだ十歳にもなってないように見える。特徴的な黒と白のゴスロリ服に、自動人形に良く似た無表情。この少女を始めてみる人間は自動人形と疑ってもおかしくはないだろう。しかし、実際は違う。この少女は決して機械で作られた自動人形ではない。

「Jud.」

 と、エセルドレーダが無表情に言う。が、若干腰の上での居場所を整えると上目遣いを駆使し、

「エセル、パパにいやらしー事をして欲しいの。―――どうですかこの完璧なロリボイスは。本来のロリボイスに加えてパーフェクトな演技を持ってその手の畜生道に落ちた人間には非常にたまらない演技だったはずです。さぁ、どうでしょうマスター」

「うん。黙れ」

 黙っていれば可愛いのにどうして自分からここまで残念になりたがるのだろうか。大体、エセルドレーダは間違っている。

「いいか、エセル俺は―――巨乳ロングポニテ属性なんで」

 その言葉にエセルドレーダが無言で自らの膨らみのない胸をペタリと触れた後、ポニテールにしてある髪に触れる。無表情ながらもどこか満足した様子で顔を見る。

「問題ありませんね」

「現実を見ようぜ。希望なんかねーから」

「Jud.希望は作るものだと理解しています。ですから肉体改造術式をハリーハリーハリー」

「邪道だよエセルちゃん! 天然モノだから価値があるんだよ! 偽りのオパーイに価値はないんだよ!」

 ―――俺は朝から一体何をやっているのだろうか。

 朝起きた直後から開始する頭の悪い会話はもはや慣れたものだ。それこそほぼ毎朝繰り返している。そのため、咄嗟の事で馬鹿を言うのであればそこそこ自信がある。別にそれを得意に思ってもいい事はないと理解しているが。

 体を起き上がらせる。上に乗ってたエセルドレーダーが起き上がるのと同時に体が浮かび上がり、小さく、それこそ走狗程のサイズになる。いや、実際にエセルドレーダは自分専用の走狗として活躍してくれている。小さいデフォルメ姿のエセルドレーダは、これから走狗としての仕事を始めるという切り替えでもある。

 起き上がってまず初めにやることは部屋の換気だ。

 寝ている間に溜まった寝汗からの臭いを追い出すためにも窓を開け、布団を大きく開けて乾燥させる。こういうことは気にせずとも後で自動人形が掃除しに来てくれるが、そういうのを全て任せて怠けてしまうのはなんか違うと自分では思っている。だから自分でできることは自分で、そう決めて自分でできることはなるべくやっている。

「エセル」

「現在の時刻は五時です」

 何時もどおりの時間だ。おそらくエセルが起こしてくれなければ自分の力で起きる事は出来ないだろう。それぐらいの怠惰は人生に必要なものとして許されて欲しい。

「朝練して水浴びして、そんで朝餉か」

 それも、何時もと変わらない。

 近くの箪笥にしまってある制服に手を伸ばすが、その途中で腕の動きを止める。確か今日は安息日だ、

「ま、いっか」

 一番動きやすい服が制服だと言う事もある。安息日であろうがなかろうが、それに慣れてしまったため、一瞬迷ってから制服を取り出す。前に寝巻き以外での私服を着たのは何時ごろだろうかと考えながら。


                   ●


 新名古屋城教導院の制服は極東の制服と共通して布地の部分が多い。ただ、新名古屋城教導院の制服は三河の防衛も兼ね備えた三河警護隊の人員が所属している事もあり、制服には戦闘も想定して装甲が少量だが使用されている。もちろんそんな状況になることを聖連は許しはしないだろうが。

 俺の制服からはその装甲が外されている。その理由は単純明快に、必要ないからだ。鋼鉄の体と合一する武神乗りに生身での防御力は期待されていない。そんな訳があって着用している制服は装甲のない、青、黒、白の色の制服となっている。基本的に改造が自由となっている制服だが春の陽気になってこれ以上脱ぐことはあっても無駄に布を増やしたいとは思わない。

「マスター」

「Jud.Jud.」

 あまりのろのろしていると朝の鍛錬できる時間がなくなってしまう。着替え終わったら障子を開ける。そこで縁側を歩いてくる存在が見えてくる。真っ直ぐ此方へと歩いてくる姿へ頭を下げる。

「おはよう御座います鹿角様」

「おはよう御座います竜馬様。今朝もこれから鍛錬だと判断しますが」

 侍女の服を着る自動人形には頭に特徴的な鹿の角を持っている。開発者の遊び心だろうか、名前からイメージできそうなものを機能美合わせて取り入れている。目の前の自動人形は寝泊りさせて貰っているこの家で一番実力と発言力を持っている自動人形だ。世話になっていることも多く、頭の上がらない相手だ。

「えぇ、体を動かしませんと直ぐに鈍ってしまいますので」

「Jud.では何時もどおりだと判断します。朝食も全て終わる頃には準備しておきますのでどうぞ遅れずに食堂へと参ってください」

「Jud.です。何時もありがとう御座います」

 ここですいませんと、そう答えるのは自動人形という存在へ対しての侮辱にある。自動人形とは人に仕える存在ではあるが、それでも自動人形の自主性、自由は認められているのだ。故にすいませんと、まるで自動人形に対して申し訳なく思うのは間違いだ。

「これが我々ですから。では良い鍛錬を」

「はい」

 頭を下げてから鹿角が去って行く。正直言えばあそこまで完璧な自動人形は初めてみるのだが、常日頃から彼女に対して反発しているここの家長は一体何が不満なのかと問いたくなる。しかし問うた所で舐めきった顔と答えしか返ってこないのでそこらへんは素直に諦める。

 ―――M.H.R.R.からこっちに来て一番思ったが、極東の人間は若干エキセントリックすぎる気がするよなぁ……。

 毎日を全力でふざけているように感じるが、もはやそれになれてしまった自分はどうなのだろうと、そう思いつつも縁側の下に置いてあった靴に足を通す。部屋の前、縁側の先には暴れるには足りないが、体を軽く動かす程度であれば十分の広さを持っている庭がある。やはり、一流の家客間は豪華だな、と改めて認識したところで。

「では朝のメニューを開始します。まずは腕立て伏せからです」

「Jud.」

 破れては再生を繰り返した手のひらは今更砂利の大地に押し付けて傷つかないし、痛みも感じにくい。エセルドレーダがカウントする為に小さい、走狗姿のままちょこんと背中に乗る。重さは感じない。それが目的ではないし、朝は元々軽く済ませるつもりだ。

「それではカウントを始めます」

 一回目の腕立て伏せをするのと同時に、

「一回」

 エセルドレーダの声を聞きながら朝のメニューを消化する。


                   ●


 少しだけ湿っている黒髪に触れる。完全に乾いてはいないが、水浴びをして朝の鍛錬で得た汗は落とせた。段々と季節が変わり春になると大分暖かくなるため、少し長めの髪では暑く感じてくる。冬は本的に伸ばして、春や夏には短く切っているためそろそろ切るべきかもしれない。

「マスターの御髪はその長さが一番自然かつ素敵だと思います」

「ありがとよ」

 エセルはそう言ってくれるが、暑いのはやっぱり暑いのだ。

 水浴びと着替えを終えると、朝の鍛錬時には装着してなかったバンダナを頭に巻いて、制服ともども一日の完全武装を完了とする。水浴びをして完全に覚醒しきった意識を持って広い武家屋敷、その一角へと向かう。

 住み始めてから既に数年が経過している。故に武家屋敷の内部は完全に把握しているし、迷うことはない。しかしM.H.R.R.にいた頃の生活を思いだすとずいぶんと恵まれているなと思う、自分の貧乏人魂にはどこか呆れを感じる。贅沢は敵だと言わないが、個人的には少し広い気もする。自分の部屋を貰わずに少し言い際客間の方を使わせてもらっているのはそういうことが理由でもあったりする。

「マスター」

「Jud.Jud.」

 声をかけてくれたことの意味は解っている。脱衣所を後に、食堂へと向かう。こういう意味ではエセルドレーダには日常的に助けられている。これであのエキセントリックな部分が鳴りを潜めてくれればもう少し言う事がないのだが、惜しくはそれが高望みである事だ。

 広い武家屋敷の廊下を匂いに誘われるように歩いた先に、食堂はある。最もこれは使用人とかの為の食堂であるのだが。家の主や家族、客人向けの食事場所は別にあるのだが―――家の主自身がこの場所を気に入っているので、基本的な食事は全てこの場で行われている。

 しかし、最近は”人払い”の件もあって全く人間の姿は見なくなり、使用人で残っているのは全て自動人形だ。寂しさがないと言えば嘘だが、自動人形である彼女達との会話も十分に楽しいため、そこまで気にすることではない。

 食堂に入りながら席に着く。エセルドレーダは食べる必要がないため、走狗姿のまま肩の上に座る。基本的にそこがエセルドレーダの定位置になっており、大体の場合でそこにいる。

「おはよう御座います」

「Jud.おはよう御座います」

 自動人形の一体が朝餉を運んで、目の前に並べてくれる。鮭にご飯に味噌汁と漬物。シンプルながら朝食には十分すぎる組み合わせだ。IZUMO社製のキチガイとしか言い様のない地雷料理なんて絶対に出てこない。それだけで幸せだが、まだ美味しくて困る。

「いただきます」

 両手を合わせて今日も美味しいご飯を食べられる事に感謝しつつ料理を口に運ぶ。相も変わらずご飯のやわらかさから鮭の塩辛さまで、全てが食べている人の事を考えて作られていて美味い。あぁ、やはり美味しい料理を口にしている時間とは至福だ。出来たら毎日美味しい料理を食べて寝るだけの生活をしたいが、不可能な夢として諦めておこう。

「マスター」

「ん?」

 鮭を箸でつまみながらエセルドレーダの言葉に耳を傾ける。

「私と結婚、いえ、子作りしてくれれば毎日食っちゃねの生活を保障します」

「料理と言う名のショゴス召喚が止められる様になったら考えるよ」

 真剣な話、まずは料理に術を使うところから止めろ。術を料理に使っている時点で色々間違ってるんだよ。

 そう言おうと思うが、言っても改めるどころか斜め上の方向へ飛んで行くのでそこらへんは仕方がない、と諦める他がない。願わくばエセルドレーダが鹿角辺りに習う事だが、可能性のない事を考えていても仕方がない。今のところはクトゥルフクッキングを綺麗サッパリ脳の中から消し去る。

 と、そこで後頭部を軽い衝撃が走る。

「おう、元気か坊主!」

「あ」

 軽く後ろを振り返れば見慣れた人物がいる。箸を一旦おいて、この家の家長に頭を下げる。

「おはよう御座います忠勝様」

「おいおい、よせって言っただろ坊主。お前ももう直ぐウチの一員になるんだからよ、我としちゃあもう少し堅苦しいのをやめて欲しいんだよ」

 背後に音もなく現れたのは初老に入りかけたが、その雰囲気からしてまだまだ健在を示す若々しさがある。衰えを見せない体は今でも一線級の力を持っていることは自分の身をもって知っている。尊敬できる人物の一人だ。

「あ、あとそれ、どうにかならんのか」

 それ、と言われた本多・忠勝の視線の先には殺気を持って忠勝を睨む走狗姿のエセルドレーダがいる。頭を撫でてエセルドレーダを宥めつつ嘆息する。

「いい子なんですが、過保護でして……えぇ、それはもう過保護でして」

「いやまあそれは我も知ってるんだけど過保護っつーよりはもっとこう、飼い主を守る様な犬に見えるんだがなあ」

 犬耳、尻尾を装備してお座りのポーズをするエセルドレーダを想像する。……あまりに貧相で可哀想なので胸をもっと増やしてちょっとだけ背を伸ばす。

 ―――アリだな。

「お前、頭の中で何を考えてるか解らないけど修羅道には落ちるなよ。ロリコンにつける薬は生憎とまだ発明されてねぇから」

「失礼な、ロリコンの何がいけないのですか。マスターはその道へ落ちるべきです。今すぐに」

「エセルお座り」

「わんわん」

「仲の良いコンビだなオメエラ」

 苦笑しつつ忠勝が横の席に座り、

「鹿角ー! メシー! 我にメシをくれー!」

 と、厨房へと叫ぶのと同時に厨房で一瞬光が反射するのが見える。次の瞬間には厨房から投擲された包丁が自分と忠勝の前のテーブルに突き刺さっている。突き刺さった所に、数ミリ横には忠勝の手がある。

「忠勝様―――流石に竜馬様から鮭を奪うのはどうかと思います。」

「忠勝様……」

「よ、余所見してんのがいけねえんだよ!」

「子供の発想だと思われます。何時から貴方は幼児退行したのですか」

「男は何時だって子供のままさ!」

「いい事を言って逃れているつもりですか。忠勝様。今朝は一品抜きですね」

「おい待て鹿角それはシャレにならねぇ」

 等と、忠勝と鹿角が朝の夫婦漫才にも似た光景を見るのもこの家では割と日常茶飯事だ。ここに包丁や重力操作を駆使したバイオレンスも混じるが―――それも含めてこの三河での日常的な光景だと判断する。常人からすれば発狂間違いなしだがそれを楽しく思える辺り、自分も”普通”の感性をどこかに捨ててきてしまったのかもしれない。

「どうぞ」

「おぉ、ありがとうよ」

 漸く朝餉を運んでもらった忠勝がそれにがっつく。品の欠片もない食べ方は鹿角を呆れさせるには十分すぎる。豪快な食べっぷりは見ているだけで清々しく、此方よりも量が多いのはやはりこの年にもなってまだ体を動かしている証だろうか。

「とこれでよぉ、坊主」

 横の忠勝が食べながらも話しかけてくる。

「お前、何時になったらウチの娘に逢うんだ。前に逢ったのは何時だ」

「前の総合演習の時ですから一ヶ月ほど前ですねぇ……」

「来年には元服して祝言挙げるってのに情けなくはねぇのかよ」

「あ、あははは……」

 実際を言えばかなり恥ずかしい。同じ家に住んでおきながら態々逢わないように生活しているのも本当に情けない。情けないのだが、

「忠勝様」

「なんだよ」

「自分より強い女性に負けるのって、結構恥ずかしいですよね」

「あー、それはあるわなぁ」

 互いに朝餉を食べる手は止めない。

「恥ずかしい話ですけど」

「だけど?」

「自分、男の子ですから、負けたままでは顔が合わし辛いと言いますか……あはは」

「ヘタレてやんのこいつ」

「うぐっ」

 言葉が矢となった突き刺さるような気がした。確かに武神乗りに生身での戦闘は期待されてない。武神のりは武神での戦闘技術が一番重要されている。武神の動かし方は生身のそれと同じだが、細部で異なるために完全に同じというわけではない。だから武神の操縦に長けることは生身で強い、という訳ではない。それが解っていても意地やプライドというものが草食系男子である自分にも少なからずある。

「えぇ、そりゃあ二代さんはストライクですよ。ドストライクですよ。そりゃあもう超信仰を満たしてますよ。この世で一番好きな相手ですよ。ですがこれとそれとでは別の問題です。自分もかなりちっぽけですが矜持というものを持ってます」

 だから、

「生身で二代さんに勝利できるまではなるべく顔を合わせられないなぁ、何て思ってたり」

 男として生まれている以上、何より来年には祝言を挙げる相手には負けたくない。武神に乗ってないだなんて格好の悪い言い訳なんかしたくない。妻となる相手なら尚更だ、正面から堂々と勝ちたい。出なければ男としての矜持が泣いてしまう。そういう類の小さな意地なのだ。

「ま、お前がそう言って腹を決めてんなら別に我は特に文句は言わねぇし、うわなにコイツ超ちっこいところにこだわってやがるちっせぇ……とかぜってぇ思ってねぇからな?」

「漏れてます。忠勝様、口から本音が漏れてます」

「漏れてるんじゃねぇ、漏らしてるんだよ」

「マスター、四十にもなった男が色々漏らしているようですもはや人間としてみるべきではないかと」

「なあ、お前の相棒いい空気吸いすぎてないか」

「こういう生き物ですから」

 無表情に嬉しそうにする小さな精霊を放っておいて、残った朝餉を食べ終わる。自動人形の重力操作によって食器が運ばれるので持って行く必要はない。そのまま立ち上がる。

「ごちそう様でした。今日も美味しかったです」

「Jud.そう言っていただけるのが自動人形として幸いです。しかし、当然の結果かと」

 そう言い切る機械の侍女に苦笑しながら去ろうと思ったところで、

「おい、坊主」

「はい?」

 忠勝に動きを止められる。何かと思って振り返ったら。おかわりをを貰いながら忠勝がこっちを見ていた。

「って言うと何だ。お前、二代に逢うのが情けないだけなのか」

「うぐぅ!?」

「ま、それだけだったら許してやる。おら、とっとと熱田の所に行って来い。どうせあの馬鹿の所に行ってるのは対策を組んでるからだろ」

 敵わないな、と思う。

「はい。それでは忠勝様も」

「おう、頑張れや。我もただ二代が負けるのを見るのは楽しくないから。少しばっかし気合入れるぜ」

「あ、あは、あははは……」

 ―――大人げない……!

 師からの課題がさらに重くなりそうだと思いながらも、心晴れやかに食堂を出る。


                   ●


「―――そういうわけらしいぞ」

 忠勝がそう言うと食堂、別の入り口から一つの影が現れる。スタイルのいい、女武者だ。長いポニーテールを指の先で弄るようにしてる。少し顔を赤くしてもじもじしている姿はどう見ても乙女だ。

「おい鹿角」

「何でしょうか」

「アレなんだ」

「二代様ですが?」

「おい、我の娘はもっとガサツで―――おい鹿角解ったその先は止めるから包丁はよせ」

「Jud.賢明な判断かと」

 重力制御で持ち上げた包丁を下ろしながら。鹿角は短く息を吐き出す。

「ともあれ、二代様もお年頃の乙女という事です。そろそろ一緒に風呂に入ろうとしたり直ぐに焼肉へ連れて行こうとするのを止した方がよろしいかと」

 えー、と子供のようなリアクション浮かべる忠勝に対して重力操作で浮かべる包丁を返答とし、

「ともあれ、飛場・竜馬様も本多・二代様も、この先には幸いが待っておられるようでよろしいかと判断します」

 今はまだ飛場・竜馬元服一年前の話。

 祝言まで一年の話。

 そして、極東を巡る冒険が始まる三年前の話。

| 境界線上の写本保持者 | 21:02 | comments:15 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

境界線上の写本保持者・目次

境界線上の写本保持者


序章

序章:プロローグ
序章:日常
序章:日常の狭間

| 境界線上の写本保持者 | 20:58 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

| PAGE-SELECT |

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。